投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『傾城のごとく』
【その他 その他小説】

『傾城のごとく』の最初へ 『傾城のごとく』 35 『傾城のごとく』 37 『傾城のごとく』の最後へ

『傾城のごとくU』中編-9

チコがわが家に来て新しい年を迎えた。

「いってきま〜す」

私が玄関口から母に告げると、居間からトコトコとチコが見送りに来た。玄関マットの上で大きくアクビをし、前足や後足の伸びをした後に〈ンナアァァ〜〉と鳴いた。〈行ってらっしゃい〉と言ってるつもりかなぁ。

「チコ、行ってくるね!」

頭を撫でてあげる。チコは頭を下げて目を細めている。気持ちよさそうだ。自分から頭を擦り寄せてくる。ひとしきり撫でてやり、玄関を出て学校へ向かう。

空は晴れ渡り、空気は〈キン〉と澄みわたった冷気に包まれていた。首に巻いたマフラーをギュッと締め直す。

「千秋〜!」

亜紀ちゃんの声だ。

「亜紀ちゃん。おはよう!今日、朝練は?」

笑顔で近寄って来た亜紀ちゃんは、途端にバツの悪そうな顔になった。

「エヘヘッ、サボっちゃった。って言うか目が覚めたら7時だった」

「後で顧問の先生に怒られるよ〜」

心配して聞くと、亜紀ちゃんはにっこりと笑って、

「…多分。しゃーないよ!最近、先生うるさくって。〈お前のために言ってるんだ〉が口癖でさ」

「でも、亜紀ちゃんそれだけ期待されてるんじゃないの?」

亜紀ちゃんは難しい顔をしてる。

「3年生も引退してさ、先生も来年に向けて有力なコには厳しくなったんじゃないかな?」

「私が有力?そんな冗談でしょう!」

「冗談じゃないよ。秋の体育祭のリレー、すごかったじゃない!」

それは最後の種目〈クラス対抗800メートルリレー〉での事。
男子ばかり選ばれている中に亜紀ちゃんはいた。それもアンカーで。

彼女がバトンを受けた時、順位は2位で1位との差は10メートルほど。ところが亜紀ちゃんは、2位を10メートル引き離してトップでゴールした。

「だから先生や監督も〈期待してる〉んだよ」

亜紀ちゃんはしばらく考え込んでいたが、すぐに笑顔になった。

「分かった!また陸上頑張ってみるよ」

そう言うと、今度は優しい顔で私を見つめた。


『傾城のごとく』の最初へ 『傾城のごとく』 35 『傾城のごとく』 37 『傾城のごとく』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前