『傾城のごとくU』中編-4
「イヤ…大丈夫だから…ちょっと朝から色々あって…」
「保健室行こうか?」
その時、教室に先生が入って来た。亜紀ちゃんは〈先生〉と、手を上げ、
「千秋…朝丘さんが気分が悪いようです。保健室に連れて行って良いですか?」
私は亜紀ちゃんに連れられ、保健室のベッドに寝かされた。
途端に、目の前が真っ暗になった。
「亜紀ちゃん。ありがとう」
昼休み。
彼女と給食を食べながら、私は今朝のお礼を言った。
「いいって!でも、千秋が具合悪くなるなんて初めてじゃない?」
私は〈実は…〉と前置きしてから、チコの事や最近の寝不足の理由を話した。
「なぁんだ!そうだったの。千秋、何だか新米ママみたい」
「でも可愛いいの!亜紀ちゃんも見に来てよ」
「そうだねぇ、今度の日曜は……あっ、行ける!今度の日曜に行くよ」
「分かった!亜紀ちゃんも絶対、好きになるよ」
「チコ!ホラホラッ!」
動きに合わせるように、チコが跳ね回る。
短い棒にゴム紐が付いて、その先にピンポン球位の毛玉が付いたオモチャ。
棒を上下左右に操作すると、チコは毛玉を捕まえようと躍起になって走り回っている。
亜紀ちゃんと寝不足の話をしている時、彼女がアドバイスしてくれた。
〈夜まで遊んで疲れさせれば夜中は寝てるんじゃない?〉
私は試してみようと思った。
毛玉をピョンピョン跳ねさせたり、高く宙を飛ばしたり、床を走らせたりとすると、チコは目を爛々と輝かせて毛玉を追いかける。
その様は実に可愛い。その中でも1番は、身構えた姿勢で目だけは毛玉を追っている。そしてオシリを左右に数回振ると、飛び掛って毛玉を前足で捕まえる仕草だ。
その動作を見ると、虎やチーターが同じネコ科というのが頷ける。
1時間程チコを遊ばせてから、ドライフードと水を入れ替えて2階に上がった。チコが朝まで寝かせてくれるように願って……