『傾城のごとくU』中編-12
「お姉ちゃんのせいだからね!」
「何で私が悪いのよ!」
「だってせっかくお父さんが調べてくれたんだよ!それを冗談とは言え、あんなふうに茶化されたんじゃ怒るのも無理ないよ」
姉は自分でも悪いと思ったのか、無言のまま下を向いてしまった。
「後でお父さんに謝っといで」
その時、〈ニャ〜ン〉と鳴いてチコが私のヒザに飛び乗って来た。そして、前足の肉球を舐めてその前足で顔を擦る。俗に言う〈顔を洗う〉動作だ。
たらふくゴハンを食べて満足したのか、ひとしきり顔を洗うと座り込んで身体の毛を舐め始めた。
ふと、舐めるのを止めて私の顔を覗くように頭を上げる。〈何?どうかしたの?〉とでも言いたげな顔で見られると、私も姉もおかしくなった。
「分ったよ!謝ってくる」
姉は私や母に聞こえるように言うと、父の行った風呂場に歩いて行った。
姉が台所から消えたのを見て私と母は吹き出してしまった。
チコは何のことか分からず、ヒザの上でまだ毛づくろいをしていた。
外は冷気を深め、月も冷たい明るさを放ちながら地上を照らしていた。