傾城のごとくⅡ終編-1
3月を迎えた。朝、晩の寒さは相変わらずだが、空気の匂いが明らかに違う。どこか暖かさを含んだ匂いだ。
庭のしだれ梅も満開で、鮮やかな桃色の花が流れるように咲いている。
《高気圧に覆われ、明日も小春日和は続くでしょう。しかしこの高気圧、足早に去って行きます。明後日からは寒が戻り、各地になごり雪をもたらすでしょう……》
土曜日。
遅い朝食を摂りながら、テレビの天気予報を見ていた。今日、明日は休み。
後、数週間もすれば春休みで、新学期には、いよいよ中学生最後の年を迎える。
「ニャ～～ン」
チコが帰って来た。最近、外に出る事を覚え、朝早くから遊びに行ってたのだ。
チコは私のヒザ元に飛び乗り、〈フンフン〉と鼻を鳴らすとテーブルにある食べ物の匂いを嗅ぎたした。
チコも来月を迎えると家に来てから満1年になる。手のひらに乗るほどだった仔猫が、今では体長40センチ、体重2キロの大きな猫に成長した。ただ、手足が長いのは相変わらずだけど。
「チコ～ッ、アンタ重いんだけど…」
匂いを嗅いでる間、チコは後足を私の太腿に置いてる。体重が掛かるため、爪が食い込んで痛い。
「チコ！ちょっと降りて」
そう言って抱えると、手の感触が妙に油っぽい。私はチコの身体を嗅いだ。ちょっと臭い。
「チコ。そういえば最後に洗ったのは去年の11月だったね」
今日の最高気温は19.0℃と言っていたな。ヨシッ！
「お母さん。チコ汚れてるから今日、洗ってあげるわ」
私は洗い物をする母に言った。
「良いんじゃない。今日は暖ったかいし」
母は忙しなく動きながら私に返す。
「じゃあ昼から洗う！今日は外に出さないでね。このコ、一旦外に出ると夜まで帰ってこないから」
母は〈分った〉と言って、洗い物を終えてタオルで手を拭いていた。
「チ～コちゃん！まずはクシで毛を解きましょ～ね～」
私はチコを抱いたまま、自室へと向かった。チコは〈イヤな事をされる〉のを察したのか〈ニャ～ン、ニャ～ン〉と鳴いて逃げようとする。
爪が私の腕に食い込んで痛い。
自室に入ると、机の引き出しからノミ取り用の櫛を取り出し、チコの身体をゆっくりと解いてあげる。
最初は拒否するように、〈イヤイヤ〉と身体を動かしてたけど、次第に気持ち良くなったようで、〈ゴロゴロ〉と喉を鳴らして目を細めて身を委ねてる。
「気持ち良いでしょ。チコ」
後でエライ目に会うとも知らないで……
などと腹黒い事を思っていると、顔が自然とニヤけてく。
「よぉーし！終わったー！良いコだったね」
再び頭を撫でる。さっきの余韻からか、まだ目を細めてジッとしていた。
櫛にノミはいなかったが、かなり毛が抜けた。換毛期にしては少し早いのになぁと思ったが、深刻には受け止め無かった。