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『傾城のごとく』
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『傾城のごとくU』中編-11

「ニャ〜ン!」

チコは十分堪能したのか、邪魔されたために見るのを諦めたのか、足に頭を擦りつけてきた。私はチコを抱きかかえると居間へと向かった。




「今日さ、チコったら百舌鳥を見ながら鳴くんだよ。口をモゴモゴさせながら〈ケケケケケッ〉って」

夕食の最中、夕方見た不思議な出来事を姉に聞かせた。

「ヘェ、そんなの初めて聞いたよ。何でそんな事したのかね?」

「う〜ん、私も初めて見たから理由も分らないや…」

チコは隣でゴハンを食べている。

「それは…アレだな。狩猟本能ってヤツさ。口をモゴモゴさせていたのは前歯の牙を擦り合わせて研いでいるのさ。鳴き声は小鳥を見ながらイメージトレーニングしていると言われてるんだ…」

父の話に私はびっくりした。

普段、チコの話に無関心なのに、今日に限って興味を示すなんて。私の視線に気付いた父は、照れた顔でつけ足した。

「会社に猫に詳しい女性がいてね…色々と教えて貰ったんだ」

「へぇ、お父さんが会社の女性の事なんて言うのも初めてよねぇ。ホントに猫の事だけ教えて貰ったのかなぁ?」

姉の小春は、疑うような喋り方で父に問いかける。

「小春。大人をからかうもんじゃないぞ」

父は静かな言い方で姉を叱った。でも、姉はメゲる事も無く、

「お父さんったら照れちゃってー!ねぇ?お母さんどうする」

今度は母に話を振っていく。
わが姉ながら困ったもんだ。母は食後のお茶を飲みながら、

「お父さんにそんな甲斐性有るわけないでしょ」

と、全く意に介した様子もない。
これには、さすがの姉も拍子抜けしたのか〈あらぁ〜〉と言ったきり、この話はそこで終わった。

「でも、それって小鳥だけなのかな?ネズミなんかも同じかな?」

私の疑問に、父は先程までの事を無かったように答えてくれた。

「ネズミは音に敏感だからな。多分違うんじゃないか。また聞いといてやるよ」

父はコップに注がれたビールを一気に飲み干すと、〈風呂に入る〉と言い残してその場を去った。

私は姉を見つめた。


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