難読語三兄妹恋愛暴露~次女Ver.~-8
「はぁはぁ…はあぁぁ〜…」
肩で息をしながら、キョロキョロと琢磨を探した。だけど、どんなに目を凝らしてもそれらしき人はいない。
日和は土手から河原の方へ駆け出した。
やはりいない。
膝に手をついて中腰で荒い息をする。
「はぁ、った…琢磨…」
日和が小さく呟いた時だった。
「あ?呼んだかよ、不良娘」
「…!」
頭の上から少ししゃがれた声が振ってくる。ザッザッと人の近付く音が聞こえ、琢磨のいつも履いている靴の爪先が視界に現れた。
日和はやっと顔を上げた。
「た、琢…磨…」
「何だよ、走れんじゃねぇかよ。あれなら体育サボんなくてもいーだろっ」
琢磨はニヤッと笑って日和を見下ろした。
「……」
「またシカトすんのか?」
琢磨は口をへの字にした。だけど日和は別にシカトしている訳じゃない。何から話していいのか分からないでいるのだ。
すると
「よーし、じゃあオレが一方的に話すからな!」
日和はこくんと頷いた。
「よしよし。結論から言うならな、オレ、秀高行くわ」
「えっ?」
日和は耳を疑った。
「アホには無理…」
この期に及んでまだ言うか、この女は。しかし琢磨は得意げに腕を組んだ。
「だと思うだろ?しかし実はオレ、推薦来てたんだわ。断ろうと思ってたけど」
「な、何で…」
「オレ、キャプテンだったんだよ。これの」
そう言って琢磨はボールを投げる真似をした。
「野球…?」
「セーカイ」
そういえば最初に会った時も琢磨は野球をしていた。投げたボールもよく飛んだのを覚えている。
「オレさぁ、一番最後の試合の前日に歩道橋で足滑らせて一番上から転げ落ちちゃったんだよ。足引き摺りながら家帰ったんだけどよ、あんま痛えから病院行ったらなんと左腕骨折、両足にヒビ入ってたんだよ!
利き腕はまぁ無事だったんだけどな」
これじゃ運がいいのか悪いのか分からない。
「結局試合には出れなくて、オレらは1点差で負けた。悔しくて、ずっとヘコんでて野球も何もかもどーでもよくなっんだよな」
当時を話す琢磨は思い出すのさえ辛そうに、目を伏せ眉をしかめていた。
だけど日和に目線を移した瞬間パッと明るく輝いた。