白ぃ華が咲き乱れる頃〜love letter〜-3
『もう帰るか』
蘭は薬を飲み終え、息遣いも落ち着いてきた頃、俺はそう提案した。
イヤ、それは既に俺の中で決定だった。
まだ2時間しか遊んでないから帰りたくない。と言う蘭の頭を撫でながら、
『まだ具合悪いのに、無理させてごめんな』
俺はそう言って、蘭の願いを受け入れるつもりは無かった。
それでも蘭は、
「あたし、もっと涼輔クンと一緒に居たいの。涼輔クンと居られる時が、一番幸せなの。あたし、今まで人を好きになった事なんて無かったの。ずっと恋愛に憧れてた。一度でイイから、今みたいに大好きな人の隣で、幸せを感じたいって思ってた」
泣きながら言うのだった。
『一度だけなんて言うなよ。俺はずっと蘭の傍に居る。居たいんだ。だからさ、ちゃんと風邪が治ったらまたデートしよう』
「…うん。涼輔クンは、あたしが初めて好きになった人。初めてデートした人。初めて…」
蘭は照れながら、自分の唇を俺の唇に重ねた。
「キスした人」
それからお互い見つめ合い、深く、長いキスをした。
ホントの幸せと言うものを初めて感じ、共有した瞬間だった。
―次の日―
電車のドアが開くと、怒っているような、悲しんでいるような表情をしたのぞみサンが乗り込んで来た。
そしていきなり…
パシンッッ!!
『いってぇー…』
俺は左頬を思いっきり平手打ちされた。
困惑はしていたが、不思議と怒りは無かった。それは、のぞみサンがあんまりにも悲しそうな顔で、今にも零れそうな涙を必死で流さないようにしていたから…。
だから俺は冷静に、
『何があった??』
と、痛む左頬も気にせず聞けたのかも知れない。
「あんたの所為で!…あんたの所為で、蘭…また…」
『もしかして、風邪悪化したのか!?』
さっきまで冷静でいれた俺だったが、蘭の名前を聞いた瞬間、大きな不安が襲ってきた。
「ここの病院に居るから…。行ってあげて…」
もぅ堪えきれなくなった涙を流し、自分は泣いている事も気付かないのかそれを拭うでもなく、のぞみサンは一枚のメモを俺に渡した。
【藤本 蘭】
その名前の書いてある病室へ入ると、蘭は驚いて、
「涼輔クン…。のぞみってば言っちゃったのかぁ」
ちょっと照れた様に微笑むのだった。
『ごめん!!こんな事になったの、俺の所為だ。昨日、蘭に無理させて…ごめん!』
「違うよ、涼輔クンの所為なんかじゃないよ。あたしがね、ずっと涼輔クンと一緒に居たかったの。今も一緒に居れるし、あたしはそれだけで幸せ」
そんな事を言って本当に幸せそうに笑うから…俺は蘭を、優しく包み込むように抱き締めていた。
「涼輔クン…」
そして蘭も俺の名前を呼び、腕を回してくる。
どれくらいそうしていただろう。実際はほんの数分かもしれなかったが、俺には最高に幸せな時間だった。
『もう帰るよ。あんまり長居も出来ないし。明日も来るから』
「あッ、あのね、ここにはもう来ないで」
『え??』
「お願い…」
『蘭…』
「すぐ退院しちゃうから。元気になったら、イッパイ?デートしよう。だからね、その間は文通しよう☆」
震えながら、泣きそうな顔をしながら、蘭は何かに耐えるように哀願するのだった。
俺は、「何があった??」とも聞けず、イヤ、聞いてはいけない気がして、蘭の願いを受け入れる事にした。
それから、ちょっと時代遅れの文通が始まった。
内容は、今日のオカズが美味しかったとか、恐い看護婦サンに怒られたとか、もうクリスマスだとか他愛もない事だったケド、俺はいつも待ちわびていた。
だけどある日から―…
『病院って暇じゃないの??やっぱり何か暇潰しになるようなの、持って行こうか??…と』
【今日はとっても体の調子が良かったの。看護婦サンに誉められちゃいました。これからどんどん元気になりま〜す☆ 蘭より】
俺の聞いた事に対する返答は無く、その日の出来事だけが綴られた手紙が届くようになった。
疲れているんだと思っていたケド、日に日に不安な気持ちは増していった。
のぞみサンに蘭の事を尋ねようと思ったが、蘭が入院して以来電車では会わなくなった。