『傾城のごとくU』前編-8
「じゃあ、今度は排泄しましょうね〜」
私は綿棒にオリーブオイル、ウェットティッシュを揃えてチコをトイレに座らせた。
綿棒をオリーブオイルを塗って、チコのオシリを軽く叩いてやる。
今度は〈ジャーッ、ジャーッ〉と鳴き出した。3日間、病院でやったけど上手く行かない。
「ホラッ、チコ出すのよ」
しばらく叩いていると、鳴くのを止めて身体を丸めた。
もう少し。
チコの身体が〈ブルッ〉と震える。
「よかった…オシッコもウンチもしてる…」
昨日までと違う。ひとりで何とかやれた。
排泄を終えたチコのオシリを、ウェットティッシュで拭いてやり、再び寝所に座らせる。
チコはそのまま丸くなると眠ってしまった。
「ちょっと遅くなったわね。ゴハンにしましょう」
「…もう9時近く……」
遅い晩ごはんを食べていると、母が訊いてきた。
「仔猫も数時間おきにお乳あげるんでしょ」
「そうよ」
「昼間はどうするの?アンタ学校じゃ世話出来ないでしょ」
「…そ、そうだけど……」
私は返答に困った。
チコを飼う事ばかりに気持ちが行って、肝心な昼間の世話を忘れていた。
母は私の顔をしばらく見つめて、ため息を吐くと、
「…仕方ないわね。さっきの要領でやれば良いのね?」
「…うん、ごめんなさい」
「じゃあ、夜は私にやらせてよ!」
「お、お姉ちゃん!」
驚いた。姉の小春が手伝ってくれるなんて。
「分かった。昼間はお母さんで、朝と夕と夜は私、夜中はお姉ちゃんで良い?」
母と姉が頷いた。良かった。心配事が一番良い結果で片づいてくれた。
私は嬉しさと、緊張が解けたので急にだるくなった。
「…ご馳走様…お母さん。私、今日から居間に寝るから…」
「…仕方ないわね」
2階からマットに厚手の毛布を、居間に運び込んでチコの寝所横に敷いた。
チコは音にも反応せず、スヤスヤと眠っていた。
「じゃあ私、ちょっと眠るから…零時前に起きてチコの世話したらまた眠るから…」
母と姉は〈自分達もそれを見て寝るから〉と言ってくれた。
時計を見ると10時前。私は布団に潜り込んだ。ミルクみたいなチコの匂いがする。
私はすぐに眠ってしまった。
かくして、私とチコの〈短い共存生活〉が始まった。