投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『傾城のごとく』
【その他 その他小説】

『傾城のごとく』の最初へ 『傾城のごとく』 15 『傾城のごとく』 17 『傾城のごとく』の最後へ

『傾城のごとくU』前編-4

「よかったな。いよいよ飼えるんだから」

この時、自分の顔がみるみる変わるのが分かった。
おそらく、満面の笑みだ。

「うん!お父さん。ありがとう」

「…ところで、名前は決めたのか?」

「ううん。まだ…」

私は仔猫が家に来てからでも良いと思っていた。すると、話題に母と姉が入ってくる。

「チェとかヨンとかは?」

「却下ーーっ!」

母の韓流スター好きも困ったものだ。

「じゃあさ…小梅とか桜とか…」

「う〜ん、良いんだけど何か古臭いような…」

決まらないまま3人でワイワイ言ってると、

「……チコ…はどうだ?」

突然、父の声。私は振り返った。

「…チコ…良い響きだね。チコ…チコ…うん!それにしよう」

結局、私の一存で名前は〈チコ〉に決まった。
でも、父は何処からこの名前を持って来たのだろう。

「お父さん。この名前の由来って有るの?」

私の言葉に、〈有るさ〉と言った父。何故か嬉しそう。〈よくぞ聞いてくれました〉みたいな顔。

「それは、お父さんが好きだったラリー・ドライバーの愛称なんだ」

「らりぃどらいばあ?」

私がすっとんきょうな声を挙げると母が入って来て、

「お父さんね。学生時代は自動車部に所属してたのよ。だから、クルマのレースなんか異常に詳しいのよ」

意外な答え。いつも温和で、時々厳しい父が〈自動車部でレース好き〉とは。

人は見かけによらない。

「それ、誰の愛称なの?」

「確か…ビヨン・ワルデガルドだったかな。とても人気のあるドライバーで、皆からは愛称の〈チコ〉で呼ばれてたのさ」

「ヘェ〜」

私は感心しながら父の話を聞いていた。




日が傾き、辺りを黄昏色に染める頃。私のソワソワ感はピークに達していた。

「千秋。何してるの?」

母の声が耳に届く。私が台所に立ってガチャガチャやりだしたからだろう。

「迎えに行く前にゴハン食べとくの!」

「じゃあ、私が作ってあげるわよ」

「いいの!自分でやるから」

注いだご飯に、オカカと味付け海苔を乗せる〈のり弁風〉。これに残った味噌汁でお腹を満たす。
ご飯をかきこみ、味噌汁を飲んで流し込んだ。
わずかな時間で食べ終えると、使った食器を流しに置いて、

「お母さん。夕食のオカズ残しといてね。寝る前に食べるから」

私は大急ぎで台所から、お風呂場に向かった。


『傾城のごとく』の最初へ 『傾城のごとく』 15 『傾城のごとく』 17 『傾城のごとく』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前