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『傾城のごとく』
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『傾城のごとくU』前編-11

「チコちゃ〜ん。ちょっと待ってね〜」

朝と同じようにミルクを与えようとするがイヤがり、鳴きながら私の指に吸いついてくる。

「ダメよ。ミルク飲まなきゃ」

そっと指を抜いて、補乳瓶の吸い口を口元にもっていく。
チコは〈ジャーッ!ジャーッ!〉と鳴いて飲もうとしない。

「…トイレ…じゃないの?」

姉に言われるまま、私はチコをトイレに連れていくがその気配も無い。そればかりか、鳴き声は段々大きくなって行く。

嫌な胸騒ぎ。

「私!病院へ行ってくる!」

私はキャリーバッグにチコを入れると、自転車で病院へ向かった。




先生は処置台に乗ったチコを色々見た後、

「…特に異常は見られないね?」

「…だって…ミルクもトイレもしないし…それに鳴き声が段々…」

涙声で答える私に、先生は優しい笑顔を向けてくれた。

「甘えてたんだよ。君を親と思ってるんだろう。試しに指をしゃぶらせてごらん」

私は言われるまま、鳴き叫ぶチコを撫でてやり指を口元にもっていった。すると、チコは鳴き止んで指に吸いついた。

「起きてる時はかまって貰いたいんだよ」

私がお礼を言って帰ろうと、

「朝8時から夜9時までならいつでも連れて来なさい。ひと月くらいは注意してね。それと、これ…」

先生は一枚の紙をくれた。それには〈動物救急医療センター〉と書かれていた。

「そこは、夜10時から朝5時まで開いてるから」

私は再びお礼を言って、自宅へと帰った。




「な〜んだ!結局、アンタの早とちりじゃない」

夕食時、チコの事で姉が私をからかう。

「そ、そんな事言ったって…ミルクも飲まないし、鳴き声は大きくなるし……」

「気持ちは分かるけどさ。そんなに慌てなくても、しばらく様子を見てさ…」

姉の言ってる事は正しい。でも、それを指摘されると何とも悔しい……

夕食の最中、父が帰って来た。
途端に父を囲んでの1日の報告会が始まった。
しかも、母、姉、私と同じ話題。チコの話を3人別々に父に聞かせる。
そんな私達を父は何も言わずに相づちを打ち、目を細めて聞いてくれた。


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