ジャム・ジャム・ジャム-9
「……オカマ?」
「ンダラ、このガキャア!」
少女の言葉にダナが袖を捲り上げた。
「オレァニューハーフってンだよ! しばくぞゴラァッ!!」
どすのきいた低い声で怒号するダナに、思わず少女が後ずさる。
「ま、ま、落ち着け。な?」
エイジがやれやれと言ったふうにダナを抑えると、ダナもはっとして我に返る。
どうやら『オカマ』という言葉は、彼のトラウマスイッチらしい。
彼はエイジに抱きついて、わっと声を上げて泣いた。
「エイジィィ、あの子が、あの子がアタシをオカマって! オカマってェ!!」
「はいはい」
(誰が何と言おうとお前はオカマだよ)
そんな言葉は自分の心の中だけに留めておくことにして、エイジは苦笑する。
二人の様子をつぶさに観察するように眺めていた少女はふうん、と鼻を鳴らした。
「確かに、海賊じゃなさそうね」
「言ったろ? 俺達はこの船にトレジャーハントしに来ただけだ」
「此処にハントできるようなお宝はもうないわよ」
あっさりと少女が言う。
「あたしも此処にトレジャーハントしに来たの」
「それじゃ、お前が全部お宝頂いちまったってわけか?」
エイジの問いに、少女は首を横に振った。
「横取りされたの――海賊に」
トレジャーハンターである彼女は、数日前にひとりでこの星にやって来てこの廃艦を見つけた。
しかし、ようやっとトレジャーを見つけたところで、彼女の後をつけていた海賊に襲われ、この部屋に閉じ込められてしまったのだと言う。
少女が、柱に括り付けられた長い鎖を見せた。
「女がひとりでこんなところに来たってのか?」
「――携帯用のビスケットも底を付いちゃって、一日半、飲まず食わずなのよ」
エイジの質問には答えず、彼女はポケットの中から赤い飾りの付いた髪留めを取り出し、それで髪を結い上げてから続けた。
海賊は彼女を閉じ込めてから姿を現しておらず、今日辺りにまたやって来るのかと思っていたらしい。
「そンな時にアタシ達が来た、と」
ダナが言い、ちらりとエイジを見やった。
視線に気付いたエイジは疑問符を浮かべる。
「何だよ」
「とりあえず鎖、切ってあげたら?」
「俺がぁ?」
ダナの言葉にエイジは嫌そうな声を上げ、少女の表情をむっとさせる。
「こんなじゃじゃ馬、繋いでおいた方がいいんじゃないか? 第一、怪しいじゃねえか。迷い易いマヌゥ・シーチに女ひとりでトレジャーハンティングなんてあり得ないだろ。もしかしたらこいつも海賊の一味で……」
「ッ」
少女は何か言いたげにエイジを睨み付けた。
「な、何だよ……」
(い、言い過ぎたか?)
少しばかり後悔し、エイジは彼女の視線に思わずたじろいだ。
「ちょっとォ、言い過ぎじゃないの?」
少女だけでなくダナからも冷たい視線を浴び、流石に居たたまれなくなった様子で視線を泳がせるエイジ。
「……分かった、分かったよ!」
溜息一つついて、エイジは腰のホルスターから銀色の得物――44オートマグを取り出した。
そして鎖を足で踏みつけて支え、引き金に手をかける。
「あら、あんたレイガンは?」
骨董品並みの代物を手にした相棒に、ダナは訝しげな顔をした。