ジャム・ジャム・ジャム-8
手足に長い枷を付けられて、少女は倒れていた。
ダナが少女の口に手をやり、呼吸を確かめる。
「大丈夫、気を失ってる――というよりは、寝てるわ」
ダナが安堵したようにそう言うと、エイジもほっとしたような表情を浮かべる。
そしてちらりと少女を見やり、エイジはごくりと息を飲んだ。
(……可愛いじゃねえか)
少女は年の頃なら十七かそこらで、幾分か露出は高めだが、トレジャーハンターらしい身なりをしていた。
明るいシアンの髪だが、白い肌から彼女がヒューマンであることは分かる。
エイジは呆けたようにその少女を見つめていた。
「ん……」
少女が軽く身じろぎをする。
ジャラ、と手足に付けられた長い鎖の枷が鳴って、そこでようやくエイジはこの少女が何者かに捕らわれているのだということに気付いた。
「はッ」
「やーっと目ェ覚めた? ぼーっとこの子見てるもンだから、声かけられなかったわよ」
ダナが意地悪く言って、エイジの脇を突いた。
「や……つーかこの場合」
ダナの茶化したような言葉に、エイジは頭を掻く。
そして彼はふうと、息をついて。
「眠り姫よろしくキスで起こすのが常套だよな!?」
がば、と少女を抱き寄せるエイジ。
「エイ……ッ!」
ダナが声を上げ、エイジに手刀を浴びせるより早く、ぱちりと少女が目を開いた。
眼前に迫った、見知らぬ男の唇に少女は悲鳴を上げ――
「何すんのよッ!」
「でッ!?」
エイジの頬に拳を浴びせたのだった。
唖然とその様子を眺めていたダナは、目の覚めた少女をまじまじと見やる。
開かれた瞳の色は澄んだ青。
まるで人形のようだと彼は思ったが――すぐにその考えも撤回されることとなる。
吹っ飛んだエイジをきっと睨み付け、少女は拳を震わせた。
「あいつら、こんな暴漢まで……!」
「ちょ、ちょっと」
「此処から抜け出したら、ただじゃおかない!」
「話を聞いて」
「犯す気ならそれでもいいけど、後で絶対後悔するんだからね!」
物凄い剣幕で捲くし立てる少女に、ダナが圧倒されていた。
「あたしの素性を知ったら、あんた達一生コズミック・ジェイルから抜け出せないわよ!」
「ちったぁ話を聞きやがれ!」
頬を押さえたまま、エイジが声を上げた。
その声に少女は口を噤む。しん、と辺りが静まり返った。
「で、何なんだ? お前は、俺達を海賊か何かと勘違いしてるんだな?」
「違うって言うの?」
語気荒く、少女が胡乱げな目つきで言った。
エイジは溜息をついてから、少女に迫った。
「全然違うね、俺等はトレジャーハンターだ! 此処にはハントしに来ただけ!」
「そ、そう言ってあたしを騙すつもりなんでしょ……!」
エイジの言葉に、しかし少女は未だ信用ならないといった様子だ。
目が覚めると見知らぬ男が自分に迫っていたのだから、エイジに対する彼女の不審ももっともと言える。
一方エイジも、ほんの冗談――だったと本人はそう弁解する――だったのに、いきなり拳を浴びせられ暴漢呼ばわりされたことが気に食わないらしく。
むっとした表情でエイジは言った。
「それなら聞くが、お前はどうしてこんなところにいるんだ?」
「海賊に捕まってるのかしら? ことと次第によっては、助けてあげるわ」
ダナがそう言うと、少女はダナをまじまじと見やり、顔を顰める。