ジャム・ジャム・ジャム-6
(全く、いつ来ても不気味なところだ)
もう一時間も歩いただろうか。
薄暗い湿林の中、慎重に足を進めながらエイジは辺りを見回していた。
マヌゥ・シーチ南西部にあるこの沼を、『船艇墓場』と言ったのは冒険家マーマレイドであったか。
そう、そこは正に船の墓場だった。
沼に沈んだ何艇もの錆びついた船のせいで、湿林の不気味さが増している。
カエルの鳴き声が響く沼は、進めば進むほど深くなって行くようだった。
大分奥まで進んだ二人。
「エイジ、ポイントが近いわ」
少しばかり拓けた沼地に辿り着いて、ダナが座標計測の機能を持った腕時計を見やり、エイジに声をかけた。
エイジは足を止めて、ふう、と息をつく。
「この辺りなのか?」
「もう少し進んだところなンだけど……行き止まりね」
言って胡乱げな表情を浮かべるダナ。
その視線の先は、草木が生い茂った泥の壁だ。完全な行き止まりである。
彼は再度時計を見やる。
「でも、間違いないわ、ポイントはあそこの――木が生えている辺りね」
ダナが指し示したのは、沼に生えた細木だった。
ウエイトレスから、このポイントにあるであろう財宝がどのようなものなのか、ということは詳しく聞いていない。
あの木の下に宝箱でも埋まっているとでもいうのだろうか。
「てっきり船か遺跡にお宝があると思ったんだけどな」
訝しげに言って、エイジが再び歩き出す。
「お、少し浅くなった……?」
膝上まで沼に浸かっていた足。一歩歩き出すと、沼の深さがふくらはぎ辺りまでになる。
あッ、と同じく一歩進んだダナが声を上げた。
「エイジ、これ――下が金属だわ!」
彼は腕を捲り上げて直に沼の底を探ってみる。
ぬかるむ泥の底を手のひらで確かめてみると、岩とは違った硬い感触が伝わった。
「うン、間違いない」
「もしかして、この下に船が沈んでるとか?」
これが思わぬ収穫だとすると、裸足で歩いていたダナのおかげか。
エイジもジャケットを脱いで腕を捲ると、沼の底を確かめてみた。
「確かに、土じゃないし岩でもないな」
「昔の船が完全に此処に沈ンでしまった……って考えられるわね」
「そうするってーと、入り口を探さなきゃならねーのか」
泥に塗れた腕を沼の上澄みで流しジャケットを羽織ると、エイジは腕を組む。
辺りを見回し――
「ちょっとまて、お前ポイントがあの木だって言ったな?」
「そォよ。あのぽつンと生えてる……」
辺りに他の植物は生えていない。
不自然に一本だけ生えた、落葉樹の幼木。
「あそこ、なーんか怪しいんだよな」
エイジがゆっくりとその若木を目指して歩いて行く。
すると、ふくらはぎ辺りだった沼の深さが、段々と浅くなって行った。
若木のところまで歩くと、エイジが驚いたような声を上げる。
「ッ! こいつぁ、船の入り口じゃねーか!?」
既にくるぶしが見えるほどまで浅くなった沼。
足で泥を掻き分けると、金属板が見えた。
「こいつが目印になってるのか」
若木は沼から生えているものではなかった。
その根は五十センチメートル四方の金属板――入り口か窓か――の、取っ手らしき部分に括り付けられていた。
「これ、開くの?」
エイジに追いついたダナが、若木の括り付けられている取っ手を指差した。
「さあ――罠かもしれないな」
考えてみれば、明らかに怪しい。
沼にぽつんと生えた、目につく一本の若木。
もしかしたら海賊やトレジャーハンターが同業者を潰すために、トレジャーハンターを誘っているのかもしれない。