ジャム・ジャム・ジャム-18
「ゆっくりと あまいスープに浸した夢を ひとくち」
楽しげな表情を浮かべるジャムの、薄い桜色の唇から紡がれる歌声。
「ふり向かないわ あたしはめざすの あの人がめざした あの街へ」
思わずエイジは、歌うジャムの姿に見入ってしまっていた。
高く結い上げたシアンの髪が隙間風に微かに揺れ、大きな青い瞳は暗くなり行く外の世界を見つめていた。
楽しげな歌。それは、不思議と聞いたことのあるような歌声だった。
エイジの視線に気付いたか、ジャムがエイジの方を振り向いた。
ジャムと目が合い、エイジははっとする。
先程のことがあるからか、気まずそうに頭を掻いて――しかし素直に言った。
「結構、上手いじゃねえか」
居間のソファに腰を下ろし賛辞を送るエイジに、ジャムは表情なく答える。
「歌うこと自体は……好きなのよ」
「何ていう歌なんだ？」
「名前は、ないわ。適当に作ったから」
「即興で？」
エイジの問いに、ジャムが頷く。
エイジは驚いた様子で言った。
「素直に凄いって思うぜ、お前歌手になれば？」
すると、途端にジャムが怒気を孕んだ口調で言った。
「ふっざけないで！」
「？？？」
素直に褒めたのに、まさかこんなに怒られるとは思わず、エイジが混乱する。
ジャムは苦い表情を浮かべ、小さく首を横に振った。
「ごめん……気にしないで」
一方で、ジョナ・ダイニングの隣りの大衆酒場『ドマ』。
大きなスクリーンに映し出されるニュースを見つめ、小振りのグラスを呷って、ダナが呟いた。
「――やっぱり、だわ」
第6章 よろしく頼むわ
「――やっぱり、駄目だ」
エイジが自分の部屋の前で、ぶんぶんと激しく首を横に振った。
すると怒ったようにジャムが腰に手を当てて言う。
「何よ、別にエッチな本はないんでしょ？ 一度見せてくれるって言ったんだから、観念して見せなさいよ」
エイジはちらりとジャムを見やり、微かに顔を赤くして言った。
「わ、笑うなよ？」
がちゃ、とドアを開けるエイジ。
ベッドと、武器や工具の散らばった机のみの、殺風景な部屋。
しかしベッド頭側の壁に一枚、ポスターが貼ってあった。
「これって――」
「別にアイドルフリークってわけじゃねえからな」
紺色の長い髪を靡かせた少女のポスター。
その表情は良く見えないが、真っ白なワンピースに生成りの帽子が少女の清らかさを醸し出していた。
「俺の憧れのトレジャーハンター、オーレガン・マーマレイドの愛孫で銀河の歌姫。知ってるよな？ チュール・コンフィ・ド・マーマレイド」
エイジが笑みを浮かべて言った。
ジャムはふうん、と歌姫のポスターを見やる。
「でも、彼女の歌って暗いじゃない」
ジャムは興味なさげに言う。
「暗い辛気臭い恋の歌ばっかり」
「それがいいんじゃねえか」
あの切なさがいいんだよ、とエイジ。