光の風 〈風神篇〉前編-10
「光の精霊・桂の力ね。これで少しは減ったかしら?」
「いや、一握りでしょう。相手は数でしかけてくるはず。」
マチェリラと千羅が静かに言葉を交わす。
「それでも時間は作れたはずだ。」
カルサの強い声が3人の気持ちを引き締めた。
「リュナの所へ行く。あいつの事はハッキリさせておかないと…もしかしたらこの襲撃や因縁に関わりがあるかもしれない。」
言葉の終わりは少し迷いがあるように感じられた。それでもカルサは前を向いている。
「オレは城の守りを。」
「私も。」
貴未とマチェリラの言葉に頷く。
「千羅はオレと来てくれ。」
千羅が頷いたのを確認するとカルサは出発の声を上げて走りだした。同じタイミングで貴未達も飛ぶ。
「もしもの時の為にラファルを大聖堂へ向かわせた。」
走りながらのカルサの言葉に千羅は騒めいた。もちろん千羅の反応にカルサも気付いている。
「その時は、貴未にラファルの気配を辿るように伝えてくれ。」
重いカルサからの願い。千羅はそれに応えたくはなかった。しかし状況を考えるとそうもいかない。
「機会があれば、ですね。」
それが千羅なりの精一杯の抵抗だった。カルサは彼の気持ちを察し微笑んだ。
気持ちも体も、確実にリュナの下へと近付いている。
彼女の秘密のベールは白か、それとも黒か。
1つの鼓動がゆっくりと全身に伝わっていく。やけに響く鼓動は体の機能を奪っていくかのようにも思えた。
音はやがて雫になり波紋を広げる。1つ1つの音は大切に鳴らされていく。
ドクン
心臓から爪先へ。
ドクン
心臓から指先へ。
ドクン
心臓から頭の先へ。
全身に波は伝わっていく。大きく深くゆっくりと、鼓動はまるで儀式のように、身体というよりも存在の色を染めていくように感じられた。