真夜中のメロディ-4
「な、なんで?……なんで、そこまでしてくれるの?」
驚きから戸惑いに表情を変えて、ソイツはオレを見つめる。何と猫の目のように変わる事か。
「オレはオマエの歌に惚れた。それを皆に聴かせたい。それだけだ」
ソイツはまじまじとオレの顔を見つめていたが、やがて笑顔を作ると、
「…分かった。やってみる」
オレも同じように微笑んだ。
「演奏日が決まったら教えてくれ。見に行くから」
そう言ってソイツに名刺を渡した。しばらく食い入るように見つめていたが、やがて笑顔をオレに向けた。
「真田…ツヨシ?」
「剛と書いてゴウって言うんだ」
オレも笑顔で言葉を続ける。
「…さっきは途中までだったな。1曲、聴かせてくれないか?」
「…いいよ」
オレの願いを快く受け入れ、ソイツはギターを爪弾いた。
♪
少女が一人、砂漠の道を歩いていた。
少年が一人、宮殿の中を歩いていた。
少女は月を、
少年は太陽を、
探し求めていた。
少女は見つけた。
砂漠の中、唯一のオアシスを。
夜のオアシスには、白い月が映っていた。
喜びに溢れた笑みを浮かべ、池のほとりに跪き、月に向かって細い手を伸ばす。
少女の指が月を掴むことはなかった。
映った月は本物にはなり得ないから。
少年は見つけた。
宮殿の一室で、窓から降り注ぐ太陽を。
艶やかに飾られた窓は太陽の熱を拒み、その姿だけを招き入れる。
見たことが無いほどに赤く染まった太陽。
それはとても間近に見えた。
少年は太陽へと白い手を伸ばす。
少年の指が太陽を掴むことはなかった。
なぜなら、太陽はそこに無く、
あるのは大仰に飾りあげた窓だけだったから。