真夜中のメロディ-3
「…いつも、ここで歌ってるのか?」
ソイツは俯いてギターを撫でながら、オレの言葉に答える。
「ううん。時々……週に2〜3回かな」
「普段は何してんだ?」
「別に…たまにバイトやって、後は練習してる」
ソイツにとってイヤな質問だったのか、さも面倒臭そうに言った。
オレは作り笑顔を浮かべてなおも訊いた。
「家は?何処に住んでんだ」
我ながらぶしつけな質問。
だが、ソイツは気にした様子も見せずに答える。
「友達のトコを泊まり歩いたり、後はネカフェに行ったり…」
「ネカフェ?」
オレの不可解な声に、ソイツは補足するように、
「ネット・カフェ。ナイトパックなら2千円位で泊まれるの」
「ヘェ、そんな場所が有るのか……」
オレの中では、彼女のアウトラインが出来上がっていた。
〈目標を持ってはいるが、そのため以外の努力はしない〉
必要最低限の金は必要とするが、それ以外は友人等への依存を仕方ないと考えている。
オレは、ソイツに肝心な事を訊いた。
「ところで、ここから200メートルほど先には、オマエのような素人のシンガーを受け入れるライヴハウスが在るが……?」
ソイツの目が輝いた。
「知ってる。《昭和》でしょ」
「何故そこで歌わない?」
オレはやや屈み込んで顔を覗き込んだ。ソイツは夜の寒さから両手に息を吹き掛けると、
「あのさ、お金なきゃ歌えないの」
「つまり、エントリー・フィーが必要だと?」
「そうよ」
「幾らなんだ?」
「…確か、3千円位だったと……」
「そうか…」
オレはゆっくりと立ち上がり、ソイツを見下ろした。
「…そのエントリー・フィー、オレが出してやる」
「エエッ!」
ソイツは目を見開き、驚きの表情でオレを見つめる。
オレは再び財布から有るだけの札を抜いて、
「これで《昭和》に出てみろ」
そう言ってギターケースの中に札を置いた。