真夜中のメロディ-2
ソイツの声がメロディに乗って耳に響いてきた。
聴いた事の無いメロディ。なのにオレの身体は震え、鼓動は強まり、速くなる。
初めての体験。
「…あの、ゴウさん?」
茫然と見つめるオレを、心配気な顔で覗き込む相棒。
「ちょっと待っててくれ……」
オレはそう言うと、100メートル先のソイツを目指して歩き出した。
距離が縮まる。外灯に映る姿は、長く茶色の髪と黒っぽい服。
残り30メートル。
10メートル。
ソイツの前で立ち止まったオレは、まじまじと凝視した。
グレイのニット帽を真深に被り、長い茶髪を前に垂らしてる。
黒のジャージにジーンズ。黒のスニーカー。
ソイツは、目の前に現れた作業服姿のオレを怯えたような表情で見つめている。
「いま歌ってたの、オマエだよな?」
「…そうだけど…」
ソイツは静かに答えた。
だが、目は泳ぎ、顔を引きつらせている。
外灯に映る病的に白い肌。大きな瞳に太い眉。あどけなさの残る顔立ちと華奢な体躯から、かろうじて女を表していた。
「オマエ、女か?」
オレは確かめるように聞いた。
途端にソイツの青白い頬が、みるみる赤みを帯びる。
「女だったらどうなの!」
眉を寄せ、目をむいてオレに食って掛かる。
オレは両手を開き、〈つっ掛かるつもりは無いよ〉と告げた。
「別に…どうもしないさ。久しぶりに良い声を聴いたんで興奮したんだ…」
そう言って財布を取り出し中身を見た。千円札が数枚。
「こいつは見料だ」
財布から札を1枚抜いて、しゃがみ込んでソイツのギターケースに入れた。
ソイツは〈こんなの貰えない〉と言っているが、
「良い歌を聴かせてもらったお礼だ。だから気にすんな」
オレがそう言うと、少し困った表情を浮かべたが、
「…じゃあ、ありがとう」
ソイツは金を受け取った。
オレは、正面にしゃがみ込む。