飃の啼く…第22章-17
「口と同じくらい口付けに適した場所を…このままどんどん下に下がっていくつもりだが。」
そう言って、狙うように私の足の付け根を見る。
「…もう!」
おかしいやら恥ずかしいやらで、頬の外側がジンジンしてきた。
「…ん?」
飃が、捧げ持つようにした私の左手をまじまじと見ている。
「何かあった?染みとか?」
「いや…何か…。」
親指でなぞったその場所に、気付いたのは飃が初めてだ。小学校時代ならともかく、中学に上がった後に会った友人で、その“印”に気づいた人はいない。
「それね…小学校2年生の時に彫ったの。彫刻刀で!」
人差し指と親指の付け根の平らな部分に、よほど目を凝らすと薄く見える。小学生のつたない字で
“ママ パパ”と。
浅い傷だったし、すっかり治った今では、皺か血管の浮き上がった筋にしか見えない。
「父さんと母さんを…忘れちゃうのが怖くて。」
肩をすくめる。
「そうか…」
そして、その場所にゆっくりと、心のこもったキスをした。
「飃?」
ベッドの上を飛び跳ねるようにして飃に近づいた。左腕は、右のと一緒に飃の首に回してある。
「やっぱ、口がいい。」
「痛いんだろう?」
「でも、口がいい。」
私は膝立ちになって、飃は私の頭の後ろに手を置いた。柔らかい舌。少し痛い。そして、とても熱い。
手のひらが背中から、腰に降りてきて、撫でるように下着を脱がす。大きいくせに優雅で長い指が、もう潤ってしまっているのを暴く。侵入されて、吐いた深い息と共に舌が動かなくなる。私は飃の洋服を捲り上げて、硬いお腹のあたりの感触を楽しんでからジーンズのチャックに手を伸ばした。私のしようとしていることに気づいて、飃が一瞬身を引きそうになる。私は飃の舌をそっと噛んで引き止めた。
優しくつかんで…そっと擦る。飃がかすかに震えて、私は内心可愛いと思ったのだけれど、それを伝える余裕はなかった。徐々に息が荒くなり、繋がったままのキスの合間に、どちらからともなく熱いため息が漏れた。
飃が私の身体を横たえ、私がそれに応じて顔を背ける。飃にそうやって見られると…凄く無防備になったような気がするのだ。
目を閉じて、一つになる瞬間を味わう。肩に置いた腕を背中に回してぎゅっと抱き締めるのとも、差し込まれた舌を受け入れて愛撫するのとも違う…これは純粋に、二人が結びつく瞬間。