辛殻破片『我が甘辛の讃歌』-1
あまり胃袋の足しになりそうもない、海苔に包まれた精米を囓る。
咀嚼。
「………………」
念のためということで、透がコンビニで買ってきてくれたおにぎりだが、三つとも中身が同じ具というのはちょっと配慮が足りないんじゃないかと思う。
しかもその中身がわさびとツナマヨネーズの詰め合わせって。 企画者は味覚が狂ってるのでは? と、大いに抗議したい。
耐えきれないほど空腹だったから、この際中身なんて関係ないけど。
「そのおにぎりさー、どうだー? うまいかー?」
台所辺りから透が批評の疑念を投げ掛けてきた。
どう返そうか非常に悩む。 せっかく買ってきてくれたものだし、「マズい」とは言えないよなあ。
でも素直に言った方がいいかもしれない、次からこういう事態を作らせなくて済むし。
オブラートに包んで返すことにした。
「…煽てにも美味だとは言えな」
「マズかった!」
遮る声。 凪しかいない。
ちなみに凪もわさび&マヨネーズ入りのおにぎりを口にした。
尤もそれは" 二回口にした "だけで、残り全ては現在僕が処理しているのだが。
「オメーに聞いてるんじゃねーよ!」
「こらこら透くん、手が止まってますよ。 ニンジンくらいすぐに切れるでしょう?」
「おサルさんはじゃがいもの皮だって剥けるのにね。 ショウちゃん、アイツ本当に人間だと思う?」
「……えーと、どうかな…」
「おいコラ外野ども! お前らには食わせねーぞ! っとと、いつっ!?」
「…透くん、手は動かしてても余所見をしてたら、指を切っちゃうのも当然ですよ。 はい、絆創膏です」
何が足りないかって、緊張感が足りない。 そう感じるのは僕だけらしい。
忘れるべきだろうか。
「脳髄まで氷漬けにされないとわからないの?」
どす黒い赤、輝きが欠落している瞳だった。 周りはナチュラルな白い色なのに瞳だけが血のように赤黒く、光の中に潜む黒い闇と言うのか。
たとえるなら、それは『雪月花』が似合う。
常に神々しく輝く太陽の裏には、深く暗い月が隠れている。 正にそのシンボルだ。
誠に失礼な言い方かもしれないが、あれはこの世に住む人の眼とはとても思えない。
透の一言、
「将太にも、聖奈さんにも殴っちまって…本当にすみません。 ごめんなさい…」
この一言で普通の黒い瞳に戻ってはいたけれど、まさか幻覚な訳があるまいし。