「S女とM男の台所事情」-3
「そうか、さすがだミツヒコ。じゃあこれから晩飯は頼んだ」
俺の宣言を聞いた彼女、にっこりと笑ってアッサリと態度を切り替える。
うーん。扱いやすいような難しいような。
「つーかさ、お前仕事何やってんだ?アタシは今、安月給で経理やってんだ。SSS製薬って会社でさ」
おでんを食べながら、彼女が何気なく問い掛けてきた。漸く会話も進むというか。
って…SSS製薬だって?
「えっ。…知ってますよ〜、俺の会社、その近くなんです。2M社っていう、文具系の…俺は営業担当で…」
俺は驚いた。結構近いのに、全然わからなかった。まぁ、お互い出勤方法違うし…そんなもんだろうが。しかし世の中狭いよな。
なんてしみじみ考える。
「…ミツヒコ…、お前…やっぱりMだろ。ツーエムって、M二乗じゃねぇか…」
同じく彼女がしみじみと言う。
…いや、会社名までそっちにこじつけますか。
「そういうさゆりサンだって、トリプルSじゃないですか…2よりすごいですよ」
「当たり前だ、お前に負けてたまるか」
何だかよくわからない舌戦になってしまった…。
俺はSSS製薬という会社が、かなり大きな会社だったことを思い起こす。彼女は安月給だと言っていたが、この暮らし見る限り自分より遥かに余裕のある生活をしていることが伺える。
というか、微妙に気になってることがある…。
メアド『queen-reika』の由来…。
…彼女昔、何やってたんだろ。贅沢な暮らししてるし…何となく嫌な予感がする。
何気に聞けずに黙り込む俺。
「そうか〜、じゃあ会社近いんだし、明日はアタシが送ってやろうか?」
不意に名案、とばかりに彼女が俺に問い掛けた。
おおっ…彼女に送って貰えるなんて……って普通逆だよな。ちょっと情けないが、俺はお言葉に甘えることにした。
「え、いいんですか?じゃあ、お願いしようかな〜なんて」
「じゃあ明日のいつもの時間、ちゃんと出てこいよ」
待ってるね、ではなく俺が時間通り出てこいと。
素晴らしい俺様っぷりで。
「は、はいっ」
勢いよく返事をした後、彼女がTVを点け、俺たちはTVの話題になり、他愛もない会話を交わした。
もちろん、小さな小さな下心は当然の如く現実になることはなく…
「じゃあ、今日はゴチソーさん!また明日な」
と、鍋と共に追い出された俺。
いや、いいんだけどさ。
俺、少しは男として見られてんのかな…。
鍋を手にして、満天の星空の下、俺はすぐ目の前の我が家へと帰路につく。
明日の約束は取れたし…まぁ、いいか。
彼女の運転…ちょっぴり恐い気もするけど。
空を見上げると、無数に輝く星が俺を見下ろしていた。
…星までも上から目線か、とM的発想をぽつり内心で零す。
そんな己を自嘲するようにフッと笑うと、俺は部屋に戻っていく。
明日はノーマルでいられますように。
終。