Music Life #1-1
「俺の奏でる...」
「じゃあ今日は君がお客さんってことでヨロシク♪」
真人が疑問をぶつけようとした瞬間、それを遮るように琴音が言った。そして、肩にかけていたケースを開き、慣れた手つきでギターを用意しだした。
「ちょっとまっ...」どうも琴音のマイペースな感じについていけない真人が、制止のために口を開いたところで、今度は彼女のギターの音色がそれを遮った。
初めて聴くはずの彼女の曲。なのになぜか... 真人はその曲を昔から知っていたような、自然と口ずさみたくなるような衝動にかられた。そして琴音は歌いだす。彼女の歌―歌うように話す彼女の歌は、まるで聴き手に話しかけているかのようだった。そして、時折こちらに向けられるあの綺麗な瞳は、真人の全てを視ているようだった。
「曲の『Music Life』は久々にいいできだったなぁ〜♪やっぱり君とは相性がいいのかも。」
その言葉で真人が我に帰った時、琴音はすでにギターを片付けていた。
「で、どうだった?」ケースを肩にかけながら真人に尋ねる琴音。「...よくわからないですけど...なんて言うか...聴きやすかった...?っていうか...おかしいな言い方かも知れませんが...まるで俺のためだけの曲みたいな気がしました...。」
どうも自分が感じたことを上手く言葉にできず、真人はまるで初めて告白された中学生のように、必死に言葉を探しながら答えた。
「おっ!?大正解♪
君すごいねぇ〜。まさか一発でこの『Music Life』を理解してくれるとは。」
「...」
「君名前なんだっけ?」
「...五十嵐 真人...です。」
「じゃあ真人、明日も今日と同じ位の時間にここに集合!!」
それだけ言うと琴音は満足下に屋上をあとにした。
一人残された真人は、タバコに火をつけ、ゆっくりと煙を吸いこんだ。
「結局名前以外なんにもわからなかったな。」
ボソッとつぶやいた真人の顔が、穏やかな朱色に見えるのは、いつの間にかその表情をかえた空の、綺麗な夕焼けに染まったからだけなのか。それは、まだ真人本人にもわからない。
続く