やっぱすっきゃねん!U…D-8
主審の右手があがる。ストライクだ。
大野は打席を外すと、1回バットを振った。
(…このえげつないボールと言い、食えないヤツだ…)
大きなスローカーブもだが、彼はそれ以上に投げ方に驚いた。
ボールが見え難いのだ。
左腕を巧く畳んで打者から見えなくすると、投げる瞬間も身体を大きく捩らず、頭の後で長く持っていた。
2球目も同じ球で追い込むと、ピッチャーは一転、速いボールを投げて来た。
「クッ!」
鈍い音が響く。
普段なら打ち頃のストレートを、大野は完全に詰まらされセカンドゴロだった。
「クソッ!」
凡打に終わった大野は、ベンチで3番の信也に伝える。
「あのカーブは捨てた方が良いぞ。それとボールの出どころが分かりずらい…」
大野はヘルメットを取りながら、
「まさか、あんな〈秘密兵器〉を隠してたなんて……」
「そんな事はないだろう」
大野の言葉を、信也はきっぱりと否定する。
「オマエが言うほどの実力なら、夏の大会で使ってるさ」
そう言うとバットを握り、
「今まで使われ無かったのは、何か理由が有るはずさ」
ベンチを出てネクスト・サークルへ向かった。
「さあて、奴ら、打てるかな」
スタンドから見つめる一哉。
1球目のスローカーブを見た瞬間、〈ほう〉と声をあげたのだ。
「カヨ。オマエならどう打つ?」
突然振られた佳代。困り顔でしばらく考え込むと、
「…私ならカーブを捨てて、真っ直ぐ狙いですかねぇ?」
「逆だよ」
「エッ!?」
「左バッターが、あの球を叩くんだ。そうすりゃツブれる」
佳代は納得出来ない顔で、
「…でも、あのピッチャーの真っ直ぐなら打ち頃ですよ」
「アイツの決め球はカーブだ。ストレートを打っても意味が無い。それにあの球、右が打つにゃ技術が必要だ。おそらく、山崎以外にゃ打てんだろう。だから、左が打つんだ。そうすりゃツブれる」
「そんなモンですかねぇ」
佳代はまだ疑っている。
しかし、一哉は自信満々に、
「そうさ。だから信也や菅が、あのカーブを狙って打てるかだな」
一哉はグランドを見つめた。