やっぱすっきゃねん!U…D-13
大森はネクスト・サークルで何度も素振りをし、ゆっくりと打席に入った。
東海の内野守備は、定位置よりもかなり前。バックホーム体制だ。
宮津はセットポジションから、早い動きで投げた。ボールは外に大きく外れる。
大森は反応したが、バットを止めた。
2球目。キャッチャーのサインが出る。宮津は頷くと、セットポジションのまま3塁ランナーの菅を見つめている。
菅はわずかなリードで動かない。
宮津の身体が前に倒れ込み、左足が前に伸びる。
菅は見つめる。
窪みに足が埋まり、身体が開き始めた瞬間、菅は土を蹴った。
大森がバントの構えをする。
宮津の指からボールが離れた。ファーストとサードが慌てて前に突っ込んで来る。
ボールは真ん中低め。大森は屈んで、目線をバットに近づけた。
菅がホームに突進する。宮津がマウンドを駆け降りた。
〈コンッ〉
ボールがバットに弾かれた。ピッチャー正面。宮津は転がって来たボールを、グラブですくい上げる動作で、キャッチャーにボールをトスする。
菅がホームを滑り抜けた。キャッチャーはボールを捕ると、素早くファーストへと投げた。
主審は右手を横に振った。
1塁審判は右手を高く上げた。
「ヨシッ!これでイケる」
永井はベンチ奥で拳を握って叫んだ。選手達もベンチ手前の金網フェンスから身を乗り出し、菅と大森を出迎える。
「…これで決まったな……」
藤野一哉は皆と同じように、拍手を送りながらゲームの行末を語った。
まさにその通りだった。
その回後続を断たれたが、2点のリードは、今日の信也にとって十分だった。
8割の力で投げる信也の球を、東海中のバッターは打ちあぐね、凡打と三振を重ねて行く。気が付けば、ひとりのランナーも許さずに6回を終えていた。
球場から歓声が止み、ざわめきが起こる。
「お、おい…これって…」
「…ああ、あとアウト3つだ…」
山下達也と橋本淳が声を落として話している。その声はどこか上擦っていた。
2人は、となりに立つ直也の顔を、そっと覗き込む。
直也は目を見開き、堅い表情で試合を見つめていた。