社長室での秘め事-1
<PM06:05>
「ちょっと…困りますっ…
今、仕事中ですっ…社長…!!
−−やめて下さいっ!!」
「あ、悪い…」
「す、すみません…」
いつからだろう、麗(れい)が拒むようになったのは…
俺はため息をついて、
「すまん、ちょっとトイレ…」
と言って気まずい雰囲気から抜け出すように社長室を出て行った。
「ふふ、まーた振られたの?」
そう言ってきたのは、帰るところだろうか…エレベーターがくるのを待っていた、秘書課の松本梨絵(まつもとりえ)だった。
俺の高校時代の同級生で、今は良き悪友と言ったところだと思う。
「振られたって、何でわかる」
「そういう顔してるわよ。
坂下と…いつからしてないわけ?」
「もう、何カ月もだよ…」
ふうっと俺はため息をつく。
坂下麗(さかしたれい)は…一応周りにはバレてないようだが俺の大切な人だ。
俺のもとで仕事をするようになったのは多分1年くらい前…春のころだっただろうか…
仕事を俺のもとでしだしたころ、今まで見たことのないような人だと思った気がする。
基本的に、俺に向けられる笑顔は作られた笑顔ばかり。
男も女も俺の機嫌を取ろうとして、怒らせないようになるべく好かれるように。
そんな笑顔はもう見慣れていて。
だけど、麗は違った。
高根の花と言われる奴だったし、秘書課ということもあって名前と顔は知っていた。
確かに美人だとは思っていた。
俺のことを本気で慕ってくれて。
俺のことを本気で信頼してくれて。
仕事も一生懸命で。
誰にも手伝わせようとしない。
そんな麗を側に置いとけば置いとくほど、誰にも取られたくないと。
そう思うのも自然だったのかもしれない。
「…原因、わかんないの?」
「わからないよ…」
「そっか…まあ、あんまり求めちゃだめよ?
それで雪人のこと嫌いになることはないと思うけどね。
あのコ、雪人のこと大好きだもの。
って何照れてるのー。
社長金澤雪人(かなざわゆきひと)も、坂下のこととなるとただの人ね」
「松本…
早く帰れ、バーカ」
「じゃーねっ」
俺は赤面しながら松本を見送った。