愛美-1
──200X年八月。真夏の蒸し暑い夕凪、傾きかかったとはいえ、まだまだ日差しは肌に突き刺さるように降りそそぐ。
街路樹の木洩れ日を煌めかせながら、コツコツとヒールを鳴らし、愛美はタクシーに手を挙げる。
午後四時、すいている時間帯らしく、すぐに個人タクシーが止まりドアが開いた。
愛美が乗り込むと、ミラー越しに行き先を尋ねるドライバーが、思わず
「ゴクリッ」
と生唾を飲んだ。
ウェーブの掛かったセミロングの髪、薄くメイクされた小顔、ブルーストライプのブラが透けて見える白いキャミソールに、ショーツが覗いてしまうほどの、ジーンズ地の超ミニスカート。
そこから伸びる、細長い生足にドライバーは見入ってしまっている。
『上野。』
愛美は行き先を告げ、ヴィトンのバックからセイラムを取り出し火をつけた。
エアコンが程よく効いて心地よい。
窓の外はまだ日も高く、陽炎が揺らめくなか、多くのサラリーマンやOL達が、汗を拭いながら歩いていた。
愛美は、しばらく移り行く車窓を眺めていたが、ネチっこい視線を感じる。
目を移すとチラチラとミラー越しにドライバーが愛美を見ている。目が合ったドライバーは慌てて視線を外した。
愛美は
「クスッ」
と笑い、意地悪くドライバーに見えるようにわざと股を広げてみた。
「ゴクリッ」
また生唾を飲み込む音が聞こえる。
愛美は可笑しかった。
○I○I前でタクシーを降りた愛美は、浅草通りを東へ向かってぶらついた。
行き交う男達は皆、愛美に視線を投げかける。
時計を見ると、夕方五時半─
国際通りを横切り、小径を曲がろうとした瞬間、
どんっ!
大きな人影にぶつかり、愛美は思わず転んでしまった。
『きゃっ!』
尻餅をついた愛美に、ぶつかった大きな影が近づき、声をかけてきた。
『ダイジョブ?』
片言の日本語に愛美が見上げると、二メートルもあろうかという二人の黒人が、愛美を見下ろしていた。
『あ…うん、大丈夫、大丈夫。』
愛美は、笑って立ち上がろうとする。
『??オー!』
すると、黒人の表情が変わった。
愛美は視線を落とし、スカートが捲り上がっている事に気付き、慌てて走り出した。