No.32 ペットボトル2-1
そいつはペットボトル越しにダルそうな目を唐突に、だがゆっくりに見上げ、オレに言った。
「全部思い出した?」
オレの体内時計がある程度正確なら、こいつとの最後の会話から五分程経っただろうか。
ペットボトルの中の飲料水は相変わらずキラキラしている。
当たり前だが、太陽の位置も殆ど変わらない。
オレはその短い間に、どうにか頭の隅から、先ほどまで繰り広げられていた電波な会話の一部始終を引っ張り出す事に成功していた。
「ああ…大概」
「そ」
相変わらずやる気の無い返事をした後、支えにしていた左肘を引っ込め、そいつはオレに向き直った。
「じゃあ、仕切り直しだね」
再び口元のみの微笑をつくる。
「ペットボトルをさっき言ったみたいに3つに分かれた世界と仮定し、ジュースをそこに住む人々にみたてたところで何の面白味もない、ここまでだったね?」
オレはコクりと頷いた、特に、後半部に。
「話が面白くなるのはここからなんだ。ここから、次のステップへ進む」
そいつは、少し目を輝かせた。
それでもその明るさはさっきの野球少年の100分の1位だろうが。
「じゃあ、何で面白くないんだろうね?」
…限りなく爽やかな晴天のもと、唐突にかけられた言葉を、オレは一瞬飲み込めなかった。
面白くなる、と言っておきながら、面白くないのは何故か、と。
最悪オレに責任をなすり付けるつもりなのだろうか、とまで思ってしまった。
「…面白くないからだろう」
ため息を呑みこんで答える。
あまりの解らなさに、半分ヤケになって来た。
「違う違う、結果じゃなくてその過程さ。なぜこの話をしても面白くなかったのだろうか?って事。なんで君がつまんねーって思ったのか?って事」
ますます解らない。
「解らない」
言葉は思考そのままだ。
「原因があるはずなんだよ、話しをしているぼくらのせいなのか、話の内容のせいなのか、はたまた…」
「分からん」
太陽が照り、地面からはゆらゆらとかげろうが浮く、セミは小さく小さく鳴く。
頭が痛い。
多分、暑さのみのせいではない。
「…じゃあこれは一旦置いとこう」
らちが空かないと判断したのか、突如、話の流れを変えられた。
どうあっても、ある程度オレに何かを言わせないと、自分から情報を与える気はないらしい。