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No32 ペットボトル
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No.32 ペットボトル2-6

「笑えたよ、何か知らないけど、いきなり震え出すんだから」

そいつはハハハと笑いながら言った。
フン、分かっていた、本当は分かっていたさ。
それぐらいの自分に対する言い訳は許して欲しい。
それでなければこいつとは付き合えない。
冗談とか、無しに。

「でも、もっといい解決法があるよ」

そいつはペットボトルを弄びながら言う。

「…何だよ」

だるかった。
オレは肘を付いて、腕で頭を支えた姿勢でそう言った。
もう聞く気なぞなかった、おそらく、戯言の補足的なものだろう。
生返事でもしながら聞き流そう。
だが、そう高をくくっていたのが間違いだったのだ。

「うん。多分、こうするのが一番良いんだ」

オレは思わず目を見開いた。
そいつの目はオレを震え上がらせた「あの目」に戻っていた。
ドッと冷や汗が出た。
姿勢を変える事ができなかった。
人間は、本当に意味不明なモノを見ると固まるのだな、とぼんやりと思った。
そいつは何気無い動作でペットボトルのふたを開けた。
次の動作が、オレには不思議と分かった。
やめろ。
そう言いたかったが、できなかった。
そいつはふたの開いたペットボトルは逆さまにして、全てのジュースをテーブルの上にぶちまけた。
その意味は、瞬時に理解できた。
それはおそらく死を意味していたのだろう。
天国の人々も、普通に暮らす人々も、地獄の人々も、。
格差や差別も、それから生まれる負の感情も、それを宿す物も、宿された物も、それを産んだ者も、産まされた者も。
多分、全ての死を意味していたのだろう。
つまりこいつは、その時等しくしたかったのだ。
世界とか人間とか命とか、よく分からない不確かな色々なものを。
暑さが少しだけ和らいできていた。
気付けば、日はとっくに赤くなっていた。
野球をしていた少年達も、グラウンドには居なかった。
小さなアブラゼミも、もう鳴いていなかった。
夕方だった。
そいつは中身の無いペットボトルをポイと投げ捨て

「帰ろうか」

と一言いうとベンチから立ち上がった。

「お…おう」

オレもそれに応じて、立ち上がった。
目は、いつの間にか普段の眠そうな目に戻っていた。
蒸し暑い夕方の公園を、オレ達は連れ立って歩き初めた。
思えば、これが最初だったのだろう。
こいつがオレに、心の中に押さえ込んでいたモノを、ほんの少しだが、はっきりと見せたのは。
オレだけに話す戯言、奇想天外な想像。
それが何を意味するのか、オレには理解できなかった。
この時までは。


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