No.32 ペットボトル2-4
「じゃあこれはは北朝鮮の人たちとか?」
「うん、まぁ、それは一般の人たちで、テレビに映ってる役人とかはひどく天国の方だろうけど」
最近、気の毒な程痩せ細った子供の映像が、よくテレビで流れているのを見る。
対象的にそこの大統領は気の毒な程太っている。
何だかやけに納得してしまった。
「まぁ、すごく大雑把に分けると発展国が天国、地図的にその近くに位置する発展途上国が普通、内乱や戦争中とか、主にアジアやアフリカ内部の貧乏な国とか、さっきの北朝鮮みたいな特殊な国が地獄だろうね。ぼくも地理は詳しくないから、そこまでよくわかんないけど…」
そこまで言うとそいつは急に言葉を切り、自分の髪をなでつけた。
暑さのせいで、こいつの額にも流石に少し、汗がにじんでいる。
オレももちろん暑かったし、セミもやかましさを増して来ていた。
そいつがふいに横を向いた時、目が一瞬、細まるのが見えた。
見逃さなかった。
その奥に何かがあった。
「…でもさ…」
だが、すぐに目は元に戻った。
隠したか、消したか、それが意図的であるかも、オレには分からなかった。
「…やっぱり天国に位置する国が圧倒的に少なくて、地獄に位置する国が圧倒的に多いんだよね。このペットボトルの世界でも、現実でもね。発展国と発展途上国だと、圧倒的に後者が多いわけでしょ?」
いつも通りの変わらない微笑で言った。
こいつの言った事は事実だ。
今現在、このペットボトルの世界には、地獄部に沢山の人がいて、普通の部分にそれよりずっと少なく、天国の部分には更にその僅かしかいない。
そしてそれは現実でも同じ事だ。
「何でだろうね?」
さっきと同じような質問をしてきた。
今度は答えを知っている。
でも何故か、不思議と、不思議と答えたくない気がした。
不思議と答えたらいけない気がした。
だが、頭の中で「杞憂」と片付けてしまった。
「…だから…それが当たり前だからだろう」
言葉を発した瞬間、いけない事をしたような、どこかに隠れたいような気持ちになった。
こいつとこんな話をしていると、時々こんな風になる。
原因は、未だに分からない。
「そうさ、当たり前なんだ」
そいつは人差し指でペットボトルを上から下までとツーとなぞった。
「引力は、上から下に働いている。それは天国から地獄へと。つまりこの世界は不幸になりやすくできてるのさ」
オレは今、こいつが放った言葉が、ペットボトルの世界に向けられているのか、それとも現実の世界に向けられているのか、判別できていない。
何故か焦燥感で胸が焦がれる。