No.32 ペットボトル2-3
「多分ね、君はぼくが、最初に地獄に位置する場所、つまりペットボトル最下部を天国だ、としていたら何かしら反論した筈だよ。この引力で引きつけられて、沢山のジュース(人々)がある場所が地獄だからこそ、君は引力の話で想像も交えて理解できた、そこが天国じゃあ、ダメだったんだ。最下部が地獄である必要があった。何故地獄である必要があったのか。解る?」
言っている事ははっきり言ってよくは分からない。
だか伝えたい事はなんとなく伝わって来た。
だから、ピンと来た。
「…当たり前…」
オレがそう呟いた時のそいつの顔は、忘れられない。
それほどまでにムカついたからだ。
そんな表情はとても同い年に向ける物じゃないだろう。
まるで我が子の成長ぶりを心から喜ぶ肉親のような顔を、そいつはごくごく自然にしたんだ。
同い年のオレに向けて…。
もう本当に殴りたかった。
だが、そんなのどこ吹く風なのがこいつだ。
こいつの事だ、オレの心境もとっくに汲み取っているんだろう。
それを分かっていながら尚、こいつの表情は変わらないのだ。
馬鹿馬鹿しくて怒る気になどならない。
と言うか怒ったら尚更子供のようで、嫌だ。
だからオレは、怒らなかった。
だからそいつは悠々と喋り続けた。
奇妙な微笑みと共に。
「そうさ、当たり前なんだ。いつだって、苦しんでいる人は多く、幸せな人は少ない。それにぼくらは疑問を持たないのさ。だから面白くなかった。当たり前だと思っている事を、改めて話されたからだ。既に分かっていたからだ。ね、解るだろう?」
頭の何処かで納得行かない自分がいるが、
「あぁ」
と、生返事で同意したのは、納得する自分もまたいるからだろう。
それにしても今日は喋るなこいつ。
「現代の世界各国に置き換えると判りやすいかもね」
そう言うとそいつは人差し指を立て、ペットボトルの中部の水滴を一つ指差した。
こいつの妄想で、普通の世界のあたりだ。
「この辺りにいるならそうだな、中国の生活レベル中の下の人たちって所かな?あんまり治安が良くないって言うし」
なんとなく、したい事が分かった。
「じゃあ、この辺のこれは…」
オレもそいつにならい人差し指を立てると、ペットボトルの上部、天国に位置する所にある一つの水滴を指差した。
「アメリカに住む人たちってとこか?」
「そうそう、生活レベルにもよるけどそんな感じだろうね」
なるほど、こいつの妄想の中では用は物質がいかに満たっているかが差のようだ。
オレは今度はペットボトルの下の方、つまり地獄にあるジュース溜まりを指した。