No.32 ペットボトル2-2
「じゃあ質問を変えるよ、何故ペットボトルの地獄部分には、人々が沢山いると思う?」
ペットボトルの話から少し遠ざかっていたせいか、何だか想像と現実がごっちゃになってきた…。
えーと…ペットボトル=下から地獄・普通・天国の世界で、ジュース=人々だから…。
つまり「何故ペットボトルの底に大半のジュースが溜まっているのか?」という質問に訳す事ができる。
あぁ、そりゃあ――
「地球の引力が働いているからだよね」
オレが答えようと口を開いたところで、そいつが自ら答えた。
何故答えられる所は言わせてくれない。
しかし、開きかけた口はそのままでは心地が悪く、仕方なくオレは
「あぁ、下に引き付けられるからな」
という補足まがいな言葉を返した。
「さぁ、ここでさっき君が解らなかった問題だ」
「何で面白くないか、か?」
「そう、それ」
…これで解けるとはとても思えないのだが、それを認めるのは何だかシャクだった。
なので、オレはしばらく考えた。
さっきのこいつの引力うんぬんを踏まえ、頭を働かせる。
ヒントは貰っている、後は、それを繋ぎ合わせる。
もうすぐで出そうだ、何かが、眉間近くでコツコツとつっかえている。
気にしていなかったアブラゼミの鳴き声が、ヤケに耳についた。
「最後のヒントは、当たり前」
そいつの言葉で、何かがカチリとハマった。
「当たり前の話をされていたからか」
「そ。ペットボトルの中身が引力で下に溜まってるなんて話、そりゃ面白くないよね」
そいつは微笑みを少し増した。
「引力という現象は誰もが知っている。産まれた時から体感しているんだからね、当たり前だ。その引力でジュースがペットボトルの下に溜まるのは、だから、当たり前の現象だ」
引力という言葉とその意味はあまりにもメジャーだ。
わざわざ言ってもらわなくてもそれ位の頭は持っている。
しかしそれと今こいつがしている話を繋ぎ合わせられない自分は、なんだか少しかっこ悪かった。
問題が解けた爽快感など最初から無い。
なんで正解したのにオレはこんな渋い顔もちなんだろう。
「…でもね」
そいつはゆっくりと身を乗り出した。
そして渋い顔のオレの目を見た。
何故だか、それから目をそらせなかった。
「それはあくまで想像抜きでのただのジュース入りのペットボトルという物質に働く引力の話なんだ、ぼくの想像を交えた話じゃない」
「……は?」
…間抜けな声はほっといてくれ。
しょうがないだろう、オレの脳はすでにいっぱいいっぱいなんだから。
「えーと、だからね?
ちょっとした矛盾が生まれるのさ。君は引力の話で自分がつまらないと感じた理由を理解した。引力でジュースが引っ張られてキャップの方の底にたまる。それは当たり前だから。でも君はぼくの想像を交えて考えていたにも関わらず、何故か引力の話で地獄で沢山の人々が暮らしている事にも納得した。何故だい?」
…そう言われれば、確かに若干の矛盾がある気はする。
こいつの妄想と、引力の話を、オレはなんのためらいも無く混同し、納得した。
矛盾はある、矛盾はあるが何故か今一つピンと来ない。
何だこの違和感は。