私の涙、いくらですか?3-7
だけど、その場を小走りで去る私の心に、
強く、強く
刻みこまれる。
なぜこんなにも胸が騒ぎ、落ち着かないのか、私にはその理由が分からなかった。
*
「遅いわね、田村亜矢子…。ったく使えない。」
そう呟きながら何気なく、窓から外を見る。
部屋から見える庭に、二人の姿があった。
「慎司と…あの女…?」
花壇の傍で秘書の竹村慎司と、清掃員の田村亜矢子が話している。
一瞬。
慎司の表情が揺れた。
何を話しているのか分からない。
何を言っても軽くあしらうだけのあの男。それなのに、あんな表情は初めてだ。
ずっと前から慎司を見てきた私がその変化を見逃すはずもない。
「なんなのよ…。あの女…!」
怒りがこみ上げてくる。
それは自分に対してか、
慎司に対してか、
あの女に対してか…
だけどその感情が分からぬままに、
強く拳をにぎりしめた。