冷たい情愛11-1
『ちょっと…紘ちゃん?おーい』
携帯の向こうからは、智子の呼びかける声。
しかし私は、目の前の彼…遠藤さんから目が離せない。
私の意識が、分裂し始める…今、私は何をしたらいいのだろう?
「あ、ごめんね。またこっちから連絡するからっ」
『へ?ちょっと、どうし…』
私は友との電話を一方的に切った。
「智子先輩は、なんて言ってましたか?」
遠藤さんは、机の上の空き缶を触りながらそう言った。
彼は、私の小細工などお見通しなのだ。
彼にわからないように、過去の「友達の後輩」の名前を聞いたことなど全く意味が無かった。
彼は「智子先輩」と、智子のことを…そう呼んだ。
智子の後輩…それは、私の「後輩」でもある。
「私が高校時代、すごく機嫌が悪い日があって…ゲーセンに行って…」
「それで?」
「ペンギンのぬいぐるみをゲームで取って…それを智子の後輩にあげたって…」
「それで、どうしたんですか?」
「その後輩は男の子で…私の事を、好きだったんじゃないかって…」
「それで?」
「遠藤くんって言う子だったらしいんです…」
彼は…そこで、言葉を発しなくなった。
その代わりに、ただ机の上の空き缶を意味もなく触り続けている。
「遠藤さん…が、智子の後輩の男の子なんですか?」
この言葉を投げかけるのに、私は一生分の勇気を使ったような気がした。
心臓は痛いくらい激しく拍動し血液が全身を駆け巡る。
なのに唇は反比例し冷たくなっている。
早く言葉を返して欲しかった。
無言な時間が耐えられなかった。
「そうですよ」
遠藤さんは、少し自虐的に笑って言った。
「もう少し、時間を置いたほうがいい…と思いましたが」
彼は淡々と語り始めた。