「真っ直ぐ……」-2
『真っ直ぐ……』
もう一度。
『真っ直ぐ……』
もう一度。
さすがに不気味になってきた。俺は電源ボタンを押し、その声から解放されようと思ったのだが、
『真っ直ぐ……』
電源が落ちない。完全に故障だ。
くそっ。修理費、高くないといいな。
『真っ直ぐ……』
「ちっ……」
なんだか耳障りになってきた。いい加減、静かになって欲しい。ただでさえこんなところでぐずぐずしたくないのに、壊れやがって。
その苛立ちを、ナビにぶつけたくなった。
「うるせえな!ったく、肝心なところで壊れやがってよぉ!」
機械相手になにを言ってるんだか。けれど、こうでもしないと苛々しすぎてさらに壊してしまう。殴ってな。
その苛々をぶつけ終わった、その時、
『真っ直ぐ……行けよ!』
そんな、どこか怒気をまるごとぶつけてくるような声が。
「な……」
俺は声を失った。
なんだこれは?
なんなんだ?
一体なんなんだ?
俺は、言い知れぬ恐怖感に襲われた。
声は、告げる。
『ほら……真っ直ぐ……真っ直ぐ行けよぉ……』
まるで死ねと言われているかのようだ。
逃げたい。
逃げたい。
逃げたい。
けれど逃げられない。
手はハンドルを握りっぱなし。
シートベルトは食い込んでくる。
アクセルを踏む足はどけられない。
ブレーキだってかけられない。
冷や汗が背中に流れた。
「ひっ……ひっ……」
終始俺はまともな呼吸が出来ず、
『ほら……!もうすぐだ!もうすぐだよぉ!』
声はそれを続けるだけ。
真っ直ぐ……真っ直ぐ……どこまでも……真っ直ぐに……。
頭の中にそんな声が響いてくる。
そして俺は、見てしまった。
ライトが照らす方向、そこには……
『あはははははははははははははははははははははは!!』
崖があった。
「うわあああああああああああ!!」
叫び声をあげても、誰も助けちゃくれない。
崖まではあと数十メートル。
もう、助からない。
俺は、直感的に悟った。
が、その時、
アクセルを踏んでいるというのに、スピードが緩み始めた。
「あっ!」
ふとガソリンのメーターを見れば、とうにEを少し過ぎた部分。
止まれ!俺は神に祈った。
思いきり瞼を閉じながら、
『ちっ……』
という声が僅かに聞こえた後、
車は完全に止まった。
「はっ……はっ……はっ……」
心臓は未だにバクバクと脈打っている。しばらく治まりそうにない。
俺は助かったのだろうか。
ふと、点灯するライトに照らされる崖が見えた。