やっぱすっきゃねん!U…C-8
「面白いな…」
その目は、イタズラ小僧のようにはしゃいでる。
ホームに戻った山崎は、言葉通りにサインも無く、ミットをバッターの胸元近くに構えている。
岩田は渾身の力を込めて投げた。
「ストライクスリー・バッターアウト!」
瀬高の3番バッターは、3球とも振りに行き、3球とも空振りした。
マウンドを降りる岩田は、青木と違い、悠々とベンチへと歩く。
青木に岩田。2人の姿に触発されたのか、
「湯田、相手してくれ」
信也はグローブとボールを持つと、ゆっくりとブルペンへ向かった。
5回表。
青葉中は4回の攻撃でさらに4点を追加した。この回で瀬高中が3点以上得点出来なければ、コールドが成立する。
永井は再び動いた。
ファーストの菅と仲谷を、ショートの大野を宇野に変えて、
「シンヤ!出番だ」
信也は〈ハイッ〉と声を挙げると、マウンドへ歩いて行く。
「やっと出てきたぁ!」
尚美が叫ぶ。
佳代と有理それに一哉までが、尚美を見た。しかし、周りは気にする様子も無く、出てきた選手に拍手を送っていた。
白線を右足から跨ぎ、マウンドに登った信也は入念に足場を作ると、しばらくホームを見つめた。
2ヶ月前の悪夢が甦る。
久しぶりの実戦に、喜びと不安が交差する。
信也は山崎のミット目がけて淡々と投球練習を繰り返した。
「バッター・ラップ!」
山崎は信也のそばに行かなかった。言う必要は無いからだ。
〈3人で終らせる〉
思いは同じだ。
瀬高中は4番バッターから。山崎はサインを出す。人差し指を1本。
信也が頷いた。
いつものゆったりとしたフォームから、右足の爪先が窪みに着いた瞬間、左腕は振り抜かれ、左足はプレートを蹴った。
〈パァンッ!〉
バックスピンの効いたボールは、バッターの手元で伸びて山崎の構えたミットに収まる。
キレ、コントロールとも2ヶ月前に戻っていた。