やっぱすっきゃねん!U…C-5
「オマエ。何の根拠も無く〈完封する〉って言ったのか?」
佳代の顔が作り笑いに変わる。
「いやだなぁ…ちゃんと考えてますよ…ハハハ…」
一哉は呆れ顔で見つめていたが、それ以上、会話を続けずグランドに視線を移した。
その時だ。
「アッ!出てきたぁ!」
尚美の奇声が周りに響く。
周りの視線が集中する。尚美は顔を赤らめ、口をつぐんだ。
「…出てきたって…何が?」
佳代と有理が小声で訊いた。尚美はグランドで無く、レフトの左隅を指差した。
その指の先を追って行くと、信也が岩田とピッチング練習をしているではないか。
その様子を、試合そっちのけで見つめる尚美。佳代と有理は顔を合わせ、ため息を吐いた。
3塁ベンチ。1番バッターの大野は、ベンチに座ってバットを握る。ラバーグリップの形が歪む。視線はバットの芯を見つめていた。
瀬高中のピッチャーが、ブルペンからマウンドに駆けて行く。大野はゆっくりとネクスト・サークルに向かった。
投球練習が続く中、大野は素振りもせずにしゃがみ込んで、ジッとピッチャーを見つめていた。
「バッター・ラップ!」
主審の声に、大野は右手にバットを持って打席に入る。
スパイクで土を掻いて窪みを作り、右足を埋めると、やや狭いスタンスをとった。
キャッチャーは、それを確認してサインを出した。だが、気づかなかった。大野がいつもより長く持っている事に。
ピッチャーが1球目を投げた。ステップしてタイミングを合わせる大野。
〈キィンッ!〉
強い金属音が響く。打球は低い弾道でレフトへ飛んだ。
レフトはゆっくりと下がってフェンス側を向いた。ダイレクトにフェンスに当たると判断したのだ。
だが、打球はラインドライブで左に曲がりながら、レフト・ポールを巻いた。
先頭打者ホームラン。
ベースを駆け抜ける大野に笑顔は無かった。ホームを踏んでベンチに帰っても、俯き加減でイスに座った。
「大野。もうちょっと喜べよ」
ベンチスタートの仲谷の言葉に大野は、
「…奴らをコールドに出来ならな……」
大野のひと言で、ベンチは異様な雰囲気に包まれた。