やっぱすっきゃねん!U…C-3
青木が8球目を投げる。山崎は左足を前にして斜に構える。
捕ったボールの勢いを利用して、ミットを素早く胸元まで動かすと、ステップ無しで右腕を小さく振った。
投げたボールは青木が屈むすぐ上を、低い軌道を描いてセカンド田村のグローブに収まった。
「青木!」
マスクを外し、マウンドに近づく山崎。
「なんだ?」
山崎を見る青木の目が険しい。緊張感がそうさせていた。
山崎は白い歯を見せて、
「今日は真っ直ぐ中心で行くからな。最初っから飛ばせよ」
それだけ言うと、山崎はホームへと駆けて行った。青木は山崎の後姿を眺めながら、
(…言われなくても分かってるよ……)
青木の脳裏に地区大会が甦る。準々決勝、2点リードで任されたマウンドで、1つのアウトも取れずに交代させられた事が。
「しまっていくぞぉーー!!」
山崎の声がグランドに響く。
1番バッターが打席に入り、構える。
主審の右手が挙がった。
「プレイボール!」
指先にロージンを付け、青木は山崎を見つめた。ミットの下から出された右手は、人差し指だけ伸ばしてる。
真っ直ぐのサイン。
しかも、ミットは真ん中に構えている。
頷く青木。
大きく息を吐き、力強いモーションから1球目を放つ。投球練習同様、強いストレート。
(アッ!)
バッターは素早くバントの構えを見せる。
ファーストの菅とサードの長岡がダッシュするが、反応が遅れた。決まればバントヒットだ。
(…クソッ!)
青木がダッシュしようとした瞬間、
〈キンッ〉
ボールはバットを弾き、勢いを残したままバックネットまで飛んでいった。
バッターは、ボールの飛んだ方向を見つめつつ、右手を振っている。
(今ので痺れたな)
再びサインを出す山崎。同じく指1本だ。今度は早いモーションで青木は投げた。
ボールは真ん中だ。バッターはバントの構えを見せない。
「ストライク・ツー!」
バッターは打席を外して数回強く素振りをすると、再び打席に入る。いつもなら、足の位置やバットを握る手の位置を見る山崎だが、この時は気にも留めずにサインを出した。
(真っ直ぐの3球勝負か…)
青木は小さく頷くと、3球目を投げる。前の2球より、やや手首を横にして指先の掛り具合を強くした。
真ん中外寄り。
バッターは、タイミングを合わせて小さく振ってきた。
だが、ボールは強いシュート回転で内に食い込む。