母がいます-1
父が再婚した。
私を産んだ母と離婚して、半年経った秋のある朝に、私と新しい母は会った。
「おまえの母さんだよ」
紹介された女は上品に笑って手を差し出した。
私は父の再婚を心から祝い、彼女の手を握った――
瞬間。
「――ッ!?」
私の親指のつけ根にマニキュアで塗った赤い爪が食い込んでいた。父には見えないように身体を盾にして。
手を放すと、彼女は「よろしくね」と微笑んだ。
女は女を嫌うもの。「そういう」義母がいるのだと聞くが、その立場に立つとは思わなかった。
「いってらっしゃい」
父が仕事に向かうのは午前八時。父を見送ってからは、戦わなければならなくなった。
リビングに戻ると強い声が飛んだ。
「お父さんの前じゃあ猫被って、行く末が楽しみ」
刺たっぷりに放つ女。なんて見苦しい。
「…」
「何よその目、親に向かって」
小気味よい音がリビングに響く。
こんなことが毎日続いた。二年程経った頃だろうか、義母がどこかの男と関係を持ち、再び離婚となった。そしていくらも経たない内に再婚。
「母さんだよ、仲良くしなさい」
前の母のおかげで私の心は荒み、すぐに再婚した父をも信じられなくなっていた。
父の隣に立っている女を睨みつけると、女はにっこり笑って言った。
「目が悪いの?駄目よ、可愛いんだから目つきもよくしなきゃ」
「は…?」
一瞬呆けた。それがなんだか面白くなくて、父を振り切り遊びに出かけた。
しかしそれからずっと女はそんな態度だった。にこにこして、毎晩夕食を用意して私の帰りを待っている。
そんな姿を見ると熱が込み上げたから、水で癒した。
そういう毎日が一年続いた。