全てを超越『6』-3
そんなこんなで、手近で空いていたレストランへと入った。
重労働で腹の減っていた俺はそれなりに頼んでいたが、それより春子の方が多く頼んでいたのはどういうことだ?
どう見たって、奴の空になった皿の方が多い。
そしてまだ食うつもりらしい。
「すいませーん。……えっとチョコパフェと……ミルクティーのお代わり。一兄は?」
「もう満腹だ。いらん」
そう、注文をウェイトレスに頼んで、春子は携帯をいじりだした。ここらへんは、今時の女の子っぽいな。まぁ、いつまでもガキじゃないっつう事だろ。
「……一兄はさ、朝霧センパイの事、どう思ってるの?」
「鈴の事?」
携帯から視線を離さずに、春子は唐突に話を聞りだした。
いきなりなんだ?
「……嫌、だったんじゃないの?」
「別に……そんな風に思った事はねぇよ。まぁ、あいつの突飛な言動や行動に振り回されてる感じはするけどな」
考えてみれば、嫌だと思った事は、ない。勘弁してほしいと思った事は数知れんが……。
「……俺は、多分甘えてた」
「甘えてた…?」
「あぁ、あいつが好意を向けてくれる事に甘えて、あいつを真剣に見ようとしなかったんだ。でもな、それじゃダメだって、この前やっと気づいた。遅すぎるぐらいだけど、鈴は……許してくれた」
ふぅ〜ん、と気のない返事が返ってくる。……何なんだ、この少し重たい雰囲気は。
その空気を物ともせず、ウェイトレスはチョコパフェとミルクティーを置き、伝票を残して去っていった。
「じゃあ、あたしも甘えるの、やめるよ」
春子が口を開く。
おぅ、それは良いことだ。荷物半分持て。
だが、この後……春子はとんでもない事を言い出した。
「あたし、幼なじみっていう関係に甘えるのをやめるよ」
へ?
「そ、そりゃ一体どういう意味…」
「一兄はもう、ただの幼なじみでも、お兄ちゃんみたいな近所の人でもないって事…」
「なに………?」
「一兄の事、一人の男の人として……見るから」
な、ななななな……
「なんだってぇ〜〜っ!?」
周りの目も気にせず、俺は声を張り上げてしまった。
「朝霧センパイには、一兄の事…渡さないから」
決意に満ちた鋭い眼光を残して、春子は伝票とともに去っていった。あ、おい、荷物は?
「………はぁ」
追えば、追いつけるが、あいつの背中は『追うな』と言っているように見えた。どうやら、今日のところは宣戦布告だけらしいが……荷物どうすんのよ?
『一兄の事、一人の男の人として……見るから』……か。
あいつと過ごしてきた20年近い間、こんな風に言われるなんて思った事は…なかった。
けど、あいつは……違ったんだな。
どーすりゃよかんべ?
参った。今回は心底参った。
俺の人生で一番困った事態だ。
鈴に告られた時以上に困った。
かぁーっ、俺みたいに恋愛超初心者が、短期間に二人も告白されて、簡単に答えが出せるわけねぇだろうがぁ!!
神様、あんたを心底恨むよ。もうちょっと、俺にも心の準備期間とか、そういうもんをくれ!!
と、思ったところであぶないヤツみたいだしなぁ。
はぁ……帰ろ。