全てを超越『6』-2
「じゃ、次は水着ね」
数分後に袋を抱えた春子が次の目的を口にした。
「水着ぃ?去年も買ったんじゃねぇのかよ」
「なに言ってんの!去年のなんて、もう古い!状況は常に流動してるんだから!」
「つまりは流行が変わったんだろ?」
無理やり引っ張られて、俺は水着売り場まで連行された。
「どうっ?」
「ビミョー」
試着室のカーテンを開いて、ビキニ姿の春子がクネッとポーズを取った。
「あのね、もうちょっと考えてから発言してよ」
呆れ顔で春子がクレームをつけた。
「まず、そんなポーズをとった時点でビミョーさに拍車がかかったな」
「う〜、失礼なっ」
試着室のカーテンで肢体を隠して、顔だけで文句を言う。
「お前さぁ、なんつーか快活そうなイメージに見られとるから、もうちょい露出控えたらどうだ?」
中高とバレーをやってた春子は引き締まった体つきだ。露出の多い水着より、あまり露出しない水着の方が似合う……気がする。
「そう。っていうか、あたしってそういう風に見られてるんだ」
「まぁ、泰明とか郭は、『春子ちゃんはいつも元気がいいな』とか言ってるしな」
「へ〜」
「で、俺はちゃんと『あいつはうるさいだけだ』と、事実というフォローを…」
「フォローになってないっ!」
そう怒鳴って、春子の顔は試着室に引っ込んだ。事実だろうが。
結局、春子は露出の少ない水着を選んだ。
で、また次の売り場が俺たちを待ってた訳だが。
「じゃ、つぎは……」
「まだ買うのか…?」
まだ2時間ちょっとだが、すでに俺はかなりお疲れ。買う事自体はなかなかに春子が決めるのが早いのだが、何せこの人の海。次の売り場までまさに荒波となった人々の間を泳いで行かなければならない。両手に荷物を持って。
『買う』という目的がある春子はともかく、『ただの荷物持ち』な俺にはなかなかハードな環境だ。
だから、げんなりした口調になるのも無理はないと理解していただきたい。
「なに言ってんの、次は一兄の服見るんだから」
「俺のぉ?」
げんなり。
「一兄って、あんまり服とかに関心示さないからねぇ。こういう時にあたしが見てあげんの!」
へぇへぇ、そりゃど〜も。
しかし、関心ない訳じゃねぇ。ただ、服に金をかけてないだけだ。俺だって、それなりに服装は気にしてんだからな。
と、心の中で愚痴っても春子に聞こえるはずもなく、俺はまた連行されるのだった。
「やぁ〜、いっぱい買ったねぇ」
「……そう思うんなら、ちょっとはお前も持てっ」
ごった返す店内で、悠々自適と言った感じの春子とは逆に荷物に埋もれかかってる俺。
なんか理不尽だ。これから昼飯を奢らなにゃならんのだから、さらに理不尽だ。断固抗議するぞ、俺はっ!
「なぁんで〜?」
「……お前なぁ」
「あははっ、わかってるよ。今日は十分働いてもらったから、お昼ご飯…割り勘で良いよ」
いや、むしろ当然だろ!?
なに、その仕方ないなぁって感じの顔は!?