相互理解=不可欠?-6
「辰也、少し寄り道して帰らないか?」
放課後、二人で帰っていたところ、少し勇気を奮って辰也を寄り道に誘った。いつもはタマと加藤がいるのだが、今日はタマの協力を得て二人っきりだ。
「ん、別に良いけど。…なんだよ、急に?」
「別に他意はない。辰也と寄り道したかったんだ」
少し訝しんだ様子があったが、辰也は承諾してくれた。
今日は初夏の陽射しがなかなかキツい。寄り道に選んだ公園には木陰で涼む人や、噴水の周りで無邪気にはしゃいでいる子供たちがいる。
ジュースの移動屋台のような車が、公園の入り口の脇に止まっていた。
「……飲むか?」
「ん?」
車の前まで来て、辰也が突然そう言った。
「今日はなかなか暑いからな。飲むか?」
「あ、あぁ。飲もう」
少し驚いた。辰也はいつもはそういった気遣いをなかなか見せてくれないから。
「何がいいんだ?」
私はミックスジュースを頼んだ。辰也はアップルのようだ。
「ほれ」
「あ、お金…」
「いい。ほら、行くぞ」
あ……。
辰也に促されて、公園の日陰にあったベンチに座る。噴水の音や子供たちのはしゃぐ声が聞こえる。ジュースを飲みながらの数分が経ったか経たないかした時、辰也が口を開いた。
「……で、話は何だ?」
「え……?」
「話があるから、寄り道しようなんて言い出したんだろ。お誂え向きに、バカとタマはいないしな」
「気づいて……いたのか?」
「俺だって、ある程度は雰囲気ぐらい読める。……なんか、あるんだろ?」
素っ気なさの中に、辰也の優しさがこもっているような気がした。意を決して、辰也に聞く。
「……私の事を…どう思ってる?」
「へ……?」
どうやら、辰也には予想外だったらしい。
もうちょっとストレートに聞いてみよう。
「……私の事、好きか?」
「……!」
顔を見ながらそう聞いた次の瞬間、辰也が向こうをむいた。
これは……やはり、辰也は私の事は……。
「そうか……」
私は謝罪を口にしようとした。好きでもない女つきまとわれて、さぞかし不愉快だったろう。
しかし…
「別に、お前の事は嫌いじゃない」
……!
「し、しかし……迷惑だとか、思ってないか!?いきなり転校してきたり、同居したり」
「そりゃ、さすがにびっくりはしたさ。でも、お前とは、ま…こ、婚約してるしな」
「その婚約も、周りから押されて……」
「馬鹿言うな」
え?
「そりゃあ、少しは場の雰囲気に流された部分もあるかもしれないけどな、少なくとも、最終的には俺が俺自身で決めた。周りなんか関係ない」
辰也……?
鼻の頭をかきながら、辰也はなおも話を続ける。
「まだ俺は高校生のガキだけど、こんな俺の人生の中で一番大きいかもしれない出来事を、自分で決めないで誰が決めるんだ?」
「では、私の事は……嫌いではないんだな」
「一度でもそんな事、言ったか?」
私は首を横に振る。ただ……
「好きだと言われた事もないが……」
「う……。…俺は、まだまだガキだから、いきなり結婚なんてできない」
「そうなのか?」
少し、今の皮肉を無視した事が気にはなったが、あえて突っ込まないでおこう。辰也はいわゆる『ツンデレ』だと、タマも言っていたからな。