相互理解=不可欠?-5
「……寂しく、ないのですか?」
「ん?」
「先生、全然寂しくなさそうに見えます」
私には、そこが納得いかなかった。愛する人とは、四六時中一緒に過ごしたいと、私は思う。辰也のそばに、ずっといたい。辰也が見ているものを見て、聞いているものを聞いて、感じているものを感じたい。だから、別々の部屋で過ごすのでさえ、寂しくてたまらないというのに……。
先生は、愛する人が地球の反対側にいるというのに、そんな素振りが全くない。
「そうだな。それほどでも、ないかな」
「どうして、ですか?」
「それが旦那とアタシの、今の位置関係だからさ」
笑いながら、先生はは言った。どういう意味なんだろうか?
「旦那は今、自分の夢のために頑張ってる。だったら、アタシは旦那を応援してやるんだ。そりゃ、アタシだってまだ若いしな。旦那が恋しくなることもあるし、浮気なんてしやがったら、アイツを殺してアタシも死ぬぐらいの考えも浮かぶだろうけど……」
けど……?
「アタシはね、夢のために頑張ってる憲、旦那が好きだ。そして旦那も、日々を頑張ってるアタシが好きだと言ってくれた。お互いの頑張る場所が違うだけで、旦那とアタシが完全に離れたわけじゃない」
そう言う先生の顔は、すごく綺麗だった。
「もちろん、帰って来たら当分、どこにも行かさないけどな」
「いいなぁ〜。なんかそういう恋愛とか夫婦とか、やっぱ憧れるなぁ」
「広川にも、いつかできるさ。そういう相手がな」
私の『そういう相手』は、辰也なんだろうか。確かに、先生は離れたところにいる旦那様とも、繋がっているんだろう。
でも、私は……。
「私は…どうしたら良いですか?」
たまらず、私は聞いていた。この胸のうちにどんどん溜まっていく不安を打ち消す何かを、先生は教えてくれるだろうか?
「……アタシとお前は違う人間だからなぁ。お前と橘の間について、あーだこーだ言う術を、残念ながらアタシは持ってない。さっきも言った通り、これはお前ら二人の問題だからな。何より、アタシは恋愛相談ってのが一番苦手だ」
む、では八方塞がりではないか。どうしよう……。
「でも…」
でも?
「一つだけアドバイスがあるとするなら……」
アドバイスがあるとするなら?
「腹を割って話し合え」
「話し……合う?」
「そう、話し合う。いっそ聞いてみろ。『私の事をどう思ってる?』ってな」
「え〜、それは…マズくないですか?辰也って、けっこーツンデレですよ」
「だったらどうした。ツンってさせないぐらい気合い入れて聞けばいい。女は度胸だ。度胸がなきゃ、良い女とは言えないぞ」
意地悪い顔で、先生は食べ終わったお弁当の蓋を閉めた。
確かに、聞いてみたい。私の事を、辰也はどう思っているのだろう。婚約しているし、同じ家で暮らすのも了承した。
嫌いではないはず……いやしかし、もし。仮にもし、私や周りに押されて仕方なく、という……ことも…。
う〜む。判断材料が乏しい上に、良い予想と悪い予想が交互に脳内で乱立する。どうすれば……って、こういう時に女は度胸、なのか?
「ま、何にせよ、結婚ってのは相互理解が不可欠だ。後はじっくり自分で悩め。そうしなきゃ、良い答えなんて出ないんだからな。以上、白雪先生の悩み相談はおしまい!」
授業に遅れるなよ、と更に言い残し、先生は屋上から消えていった。
「瑠璃、大丈夫?」
「大丈夫。少し不安だが、辰也と話してみる事にする。前進あるのみ、というわけだ」
「アタシ、瑠璃の事、応援してるから。これからも話題、しっかり振りまいてね」
タマ、それはどういう意味なんだ?