明日になれば…-7
しかし、
「春菜、オマエが辛い情況にいても前より良いと思うのは、両親の元に帰るよりマシと考えてるからだろ?」
コクンと頷く春菜。橘は言葉を続ける。
「だったら、こう考えてはどうだ?法律では15才以上になると自分の戸籍を持てるんだ。つまり親と決別出来るわけだ。オマエが親の干渉を受けたく無いならな。
そうした上で、仕事をしながら学校に行かないか?必要なら仕事や学校はオレが紹介するぞ」
春菜はかなり長い時間黙っていた。橘の言葉を消化しようとしているようだ。
沈黙を破って春菜の口が開いた。
「仕事は分かるけど…なんで学校に行かなきゃいけないの?」
「教育は必要なんだ。せめて高校まではな。今は必要無いとオマエは思うだろうが、教育こそ、自立への近道なんだ」
熱く語る橘。圭子が会話に割って入る。
「そーだ!春菜。ワタシと一緒に住んで仕事しながら学校行こう」
嬉々とした表情で、春菜を誘う圭子。
「春菜、圭子。オレはオマエ達が人として、まっとうな生き方をしてくれれば親の存在なんて、どうでもいいんだ」
「まっとうな生き方って?」
橘の言葉に、二人はキョトンとした表情で訊き返す。
橘は静かに。しかし、力強く答えた。
〈愛する人の子を成し母となる事〉
だが、この答えは彼女達には難しかったようだ。
圭子と春菜は食事と風呂を終えると、橘から自分のパジャマに着替えるよう言われた。〈他に無いの〜?〉と駄々をこねる2人だが、〈あいにく洗濯済みの物がそれしかないんでな〉と言われ渋々納得して着替える。
「さあ、夜も遅いからオマエ達はそっちの部屋のベッドに寝ろ」
と、自室のベッドを指差した。
「センセイは何処に寝るの?3人じゃ窮屈だよ」
「オレはコッチの部屋のソファーに寝る。それに、いつ電話があるか分からんからな」
2人はベッドに入りながら〈なんだか臭〜い!〉〈オヤジ臭い!〉などと騒いでいた。橘はソファーから、
「悪かったな、オヤジ臭くて。忙しくて布団を干す暇も無くてな」
圭子と春菜は、しばらく子供のように騒いでいたが、1時間もするとスヤスヤと寝息を立て出した。
橘はやれやれとした面持ちで、自分も仮眠しようとソファーに寝そべり毛布にくるまった。