明日になれば…-30
「こちらこそ。昨夜、電話でお伝えしましたが、今日はご相談にあがったのですが…」
園長は春菜を含めた職員を、部屋から外すように言った。
園長と橘が職員室に残る。
「では、話を伺いましょうか。橘さん」
「実は昨日、春菜の担当医から電話を貰いまして、彼女はもう社会復帰出来るようになったと…彼女の両親も帰って来るのを待ち望んでいます」
「なるほど、春菜さんを〈元の世界〉に戻すという訳ですね」
穏やかな口調で園長は話す。だが、橘はその意見にクビを振った。
「最初はそう思っていましたが、今日、彼女に会って考えが変わりました。彼女の意思に任せたいと…」
「どういう意味です?」
「当初は、こちらでリハビリテーションを終えた彼女を、自宅に戻すつもりでした。それが自然と思い彼女の実家へ赴き、受け入れてくれるよう段取りしました。
しかし、春菜の生き々とした表情を見て、彼女はここでの暮らしが合っているという結論に達したんです。
ならば、決めるのは彼女だと思った次第です」
橘の意見を聞いた園長は、にっこりと笑い、
「分かりました。私も同じ意見ですわ」
園長は部屋から出ると、春菜を連れて戻った。橘はやや緊張気味に彼女に伝えた。
「春菜、昨日、病院の先生が訪ねて来たよな?」
春菜はコクンと頷いた。
「先生の話では、君はもうリハビリテーションの必要が無いそうなんだ…」
橘は自宅では春菜の夫婦が、これまでの自分達の非を改めて待ってる事を伝えた。
「後は君の意思に任せるよ」
春菜は下を向いて黙ってしまった。しばらくその姿勢のまま動かない。橘も園長も全く口を挟まず待っていた。
すると、春菜は顔を上げて、
「センセイ、私帰るよ」
橘は嬉しさと、惜しい気持ちが入り混じった思いで目を細める。
「そうか…」
「でもさ、ココと実家ってどのくらい離れてるの?」
「そうだなぁ…クルマで30分くらいかな」
春菜の顔に笑顔が戻る。そして、園長の方を見ると意外な事を言った。
「園長先生!ココに通っても良い?」
「??」
園長は、春菜の言っている言葉が理解出来ないのか、ポカンとしている。
橘が笑顔でフォローする。