明日になれば…-27
「アンタ!自分のやってる事が分かってるのか?」
父親は収まらない怒りを橘にぶつける。
橘は父親の罵声を受け止めると、春菜の身に行った出来事を、ひとつ々語り始めた。
彼女と知り合い、自宅に返そうとして逃げられた事。その後、ヤクザに拉致、監禁され、売春行為を強要させるためクスリ漬けになっていた事。
そして、麻薬から立ち直りつつあり、社会復帰のためのリハビリテーションとして孤児院で働いている事を。
橘の話を聞いた後、夫婦は〈信じられない〉と言った表情を浮かべて黙っていた。
無理もない。たった数ヶ月の出来事がこれほどドラスティックな内容では、テレビドラマ顔負けだ。
父親がようやく口を開いた。
「何故、逃げられた段階で教えなかったんだ?そうすれば娘も、そんな目に遭わずに済んだんじゃないのか?」
父親らしい発言だ。だが、今は〈たら、れば〉を議論しても意味は無い。春菜の受け皿を作るのが先決だ。
橘は父親に訊いた。
「失礼ですが、春菜…娘さんが家を出てどのくらい経ちますか?」
「なんだ!いきなり」
橘の質問に、語気を荒げる父親。しかし、左隅に座って聞いていた母親が代わって発言した。
「もうすぐ半年です」
橘が出会う2ヶ月前からだ。
「その間に警察への捜索願いは?」
「いいえ、この人が〈そんな事したら、近所中に知らせるようなモノだから体裁悪い〉と…」
「オマエ!何を言い出すんだ」
母親の言葉に父親は顔を赤らめ、ヒステリックな声を挙げる。
橘の目に厳しさが映る。
「小林さん。私は職業柄、警察から色々な情報が入って来ます。
もちろん捜索願い、特に青少年のヤツは。だが、アナタはそれさえもしていない。
終わった事を議論しても無意味でしょう。それよりも、彼女がリハビリテーションを終えて〈帰れる場所〉を用意しようじゃありませんか」
「リハビリテーションを終えてじゃない!ウチの娘だ!直ぐに迎えに行く」
(…処置無しだ……)
橘は父親に苛立ちを覚えた。