明日になれば…-23
「失礼とは思いますが橘さん。2、3お聞きしたい事があるのですが?]
「私に分かる事でしたら」
「まず、あなたと草野さんとの関係です。この娘はともかく、あなたは〈その筋の人〉とは思えないもので…」
橘は自身の事や春菜との関係、草野と知り合った経緯など、かいつまんで兼坂に話して聞かせた。
最初は猜疑心を持った表情で聞いていた兼坂だったが、橘の話が進むにつれ、穏やかな顔に変化していった。
「なあんだ。私はまた、どこかの娘を草野さんトコが間違って無茶やったのかと思いましたよ。なにしろ電話では〈絶対に治せ〉だったものですから…」
橘は驚いた。
草野とは最終的には解り合えたとはいえ、〈自分達の間違い〉を認めて誠意ある対応を示してくれたのだ。
昨今、明らかに自身に非があっても、それに対して〈非を認めて責任を取れる〉一般人がどれだけいるものか。
少なくとも草野は認める度量を持ち合わせた男だった。
兼坂の質問が続く。
「彼女はタバコを吸いますか?」
「本数は分かりませんが、吸っていました」
「アルコールは?」
「私の見た限り飲んでいません」
「そうですか。彼女が覚醒剤を射ちだしたのは、いつ頃です?」
「おそらく先々月の半ば位ではないでしょうか」
兼坂は橘の言葉をカルテに書き込んで行く。
「春菜は治るんでしょうか?」
橘の切実な願いを聞きながら、兼坂は真剣な顔で語り出した。
「橘さん。何をもって治癒とするかです。クスリを止める事が出来るかと言えば答えはイエスです。しかし、社会復帰出来るかと言えばクエスチョンマークですね」
「どういう意味です?」
「今、私は彼女に注射しましたよね。あれは彼女が射たれていたアンフェ〇ミンという覚醒剤を投与したんです」
治療のために覚醒剤を注射する。橘は事の次第を解りかねていた。兼坂が説明を続ける。
「不思議に思われたでしょうが、覚醒剤を投与する事が治療なんですよ。幸い彼女が射たれていた量は分かってますから。
要は徐々にクスリの量を減らしていくんです。普通はクスリを完全に断ってしまうと思われがちですが、ショック反応を起こして死亡する事が多々有るんです。だから徐々に減らして最終的にゼロにするのがベストなんですよ。
それでも通常の反応、〈クスリの量が増える〉事からすれば反対の事を行うんですがね」
橘は改めて覚醒剤の恐ろしさを痛感した。
「時々、見舞いに来ても良いでしょうか?」
兼坂はゆっくりと首を振る。