明日になれば…-11
「そろそろ近くじゃないか?」
橘は春菜に道を訪ねる。
「うん。この先の2つ目の信号から右に曲がって、後はしばらく道なりに」
「分かった」
春菜に言われるまま、2つ目の信号を右折すると道なりに走って行く。随分と進み、その間に交差点を2つ通過するが春菜の言葉は無い。
「オイ、まだ真っ直ぐか?」
不安を覚えた橘は訊いた。すると春菜は、道の先を見つめ、
「そこの三叉路を左に曲がって」
橘は三叉路を左折する。
「アッ、そこの小路に入って」
危うく通り過ぎそうな、小さな路地へとクルマは入って行った。
「そこで止まって」
橘はブレーキを掛けた。そこは閑静な住宅地の一角だった。
橘は辺りを見回しながら、
「どこがオマエん家だ?」
「…アレッ、あの紅い屋根の家」
そう言って春菜は指差す。彼女は橘に、
「センセイ、まず私に説得させて。上手く行ってもダメでも、親に紹介するから」
橘はにっこり笑うと〈そうか、じゃあ行ってこい〉と春菜を送り出した。
春菜を送り出してから随分と時間が経った。ふと腕時計を見ると30分は過ぎている。
ちょっと様子を見に行こうとクルマのドアを開けた時、突然、橘のクルマの前方を遮るようにパトカーが停まった。
素早く2人の警官がパトカーから降り、橘のクルマを囲むと降りて来るよう言った。
言われるままに降りると、警官のひとりが、
「免許証と車検証見せて」
「何なんですか?いきなり」
「いいから。それとも、持って無いの?」
橘は納得いかないが、渋々、免許証と車検証を差し出した。
「橘忠男…42…車検証は…」
もう一人の警官が、それらをメモしてパトカーに戻る。おそらく橘の照会をしているのだろう。
5分程してパトカーから警官が戻り、もう1人の警官に耳打ちしている。
「この扱いは何なんですか?」
「ちょっと、署まで同行願えますか?」
「理由を言って下さい」
警官は咳払いをひとつして、
「実は、少女を誘拐した犯人が家の前に居ると通報があって」
橘は一瞬、何の事か分から無かった。が、次の瞬間〈やられた〉と思った。