桜が咲く頃〜優しさ〜-3
手が何かに触れた。
見ると濡れたタオルだ…
夕べのことを思い出す。
体調が悪くなってきたので、休もうといつもの柱に寄りかかって…
思い出せない…
アイツが面倒みてくれたのだろうか?
変なやつ…
俺は少しだけ、笑った。
しばらくすると、アイツはいい匂いのするものと共に戻ってきた。
『おかゆ、作ってもらったぞ』
お粥の乗っている盆を軽く上げ、にこっと笑う。
俺の隣に座り、お粥を土鍋からお椀によそっていると、一人の女性がやってきた。
なんでも、午後に客人が来るらしいので、食べ終わったらこの部屋をあけて欲しいとのこと。
それだけ言うと、女性は出て行った。
お粥を一口食べる。
なんだか、優しい味がした。
続けて二、三口食べて後は残した。
アイツは
『もっと食べろ』
と言ったが、どうも食べられない。
手元にある、お椀に残ったお粥を見つめていると、優しく頭を撫でられた。
俺は驚いてアイツを見る!
そんなことをされたのは、もうずっと昔。
そうずっと…
アイツも驚いた顔をしたがすぐに笑い
『はい、薬』
と薬と水を渡してきた。
かわりに俺からお椀を取り、残りのお粥を、土鍋にあったものまで全て平らげ
『俺、用事があるから出でくるけど、すぐ戻ってくるから、どこにも行くな』
真剣な顔。
俺が戸惑っていると、にこっと笑い、土鍋やお椀の乗った盆を持って、部屋から出て行った。
俺は、さっきアイツが触れた場所に手をあてる。
なんで…
なんで、こんなに胸が苦しいのだろう…
もう泣かないと決めたのに、涙が溢れそうになる…
俺は、目尻を手の甲でグイっと拭き、部屋を出る。
部屋を出でいつもの柱に寄りかかり、ぼーっと外を眺める。
一刻もはやく、この屋敷を出るべきなのに…
雨は、止むことなく降り続けている――