僕らの日々は。〜甘い、甘い?〜-2
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「……って事があってさ…」
「それはまたなんと言うか……」
「篠宮らしい、なぁ……」
僕の記憶が正しければ。
日本におけるバレンタインデーには、チョコを渡すのが圧倒的多数派のはずである。
そしておよそ僕が知る限り、チョコには『辛い』とか『すっぱい』なんて形容詞は付かないはずなのだが。
「その時はつい何も考えないで、『どっちかと言えばすっぱい方が好きかも』…とか言っちゃったんだよな……」
「まだ辛いチョコの方が救いがあったかもな」
「まぁ、渡されたら残さず食べろよ?」
「うん………」
ま、そりゃもちろん一葉が作ってくれたものなら、全部食べるつもりだが。
「でも沖春は貰えるの確定してるからまだマシだろ?貰えないヤツだっているんだぜ?」
「確かに最近は女子も女子同士で友チョコ交換してるよな。男子にあげないで」
「そういや中学校の頃はさ、貰えない男子は貰えないヤツ同士でチョコ買って交換してたな」
「それはそれで切ないよなぁ……」
あ、と安良が思い出したように呟いた。
「そういやさぁ。別の学校行ってた俺の友達の話なんだけどさ、なんか大変だったらしいぜ」
「何がだよ?」
「いやさ、そいつ私立の男子校でさ。さっき話してたみたいに男子皆で集まって、チョコ交換したらしいんだよ」
「……なんか嫌なバレンタインデーだな。暑苦しい」
……まぁ、異様っちゃ異様か。
「まぁそう言うなって。それでさ、俺の友達が貰ったチョコがさ、なんと手作りだったんだ」
「へー。凝った友チョコ作るやつもいるんだな」
「確かに男子が手作りってのも珍しいよなぁ」
「しかもそのチョコ作ったの、ラグビー部のめっちゃゴツイ男だったそうだ」
「そりゃまた見た目とのギャップがすごいな…」
中身は乙女か。
「……あ、じゃあその友達も手作りで返したから作るのが大変だった……って事か?」
「いや、大変なのはそこじゃなくてだな、」
なぜか安良はあらぬ方向を向いて、ぽつりと呟いた。
「本命だったんだ、それ」
…………………。
えーっと。
安良の友達は、男子校で。
ってことは、………。
「……大変、だな」
「……うん、大変だ」
色んな意味で。
「だよなぁ。あー、元気でやってるかな、あいつ…」
……元気でないのなら、その後彼に何があったのだろう。
知りたいような、……絶対知りたくないような。
とりあえず、冥福を祈る。
と、今度は狭が口を開いた。