冷たい情愛10-7
彼の部屋に着くと早々、私たちは冷蔵庫を覗き込んだ。
見事な程に、食材の無いそこを見た瞬間、私は笑ってしまった。
「これじゃあ作りようがないですね」
彼は、少し気まずそうな顔をした。
私は、再び感情を表出した彼を見て決めたのだ。
私はもう…過去を思い出し悲劇に浸るのは辞めようと。
そして、感情を押し込むのは終わりにしようと。
今の現実と心に向き合おうと。
一緒に冷蔵庫を覗き込むこの人を、好きでいたいと思った。
ほんの数時間だけ見せてくれた感情溢れる彼を…また見たいと思った。
彼に…恋をしたいと思った。
私は単純だ。
単純で惚れやすかったのだ。
それで…いいんだ。
「コンビニまで逆戻りですね」
私は笑顔で言った。それが彼には不思議だったようだ。
「設楽さん、なんだか嬉しそうですね」
「そうですか?ま…遠藤さんと一緒なら、なんでも楽しくなる気がしますから」
彼は、一重の涼しげな…けれども少し何かを含んだ目だった。
彼のこの目が、私に何も言えなくさせていた…今までは。
でも…
負けてはいられないのだ。
自分の全ての感情を、大人ぶり処理するのはもう嫌なのだ。
「ほら、出発しますよ〜」
私は彼の手を強く引き、外に飛び出した。
「寒い〜!!」
私は、今まで言ったことの無いくらい大きな声を出した。
「寒い寒い寒いいいいいい!!」
こんなに、大きな声を出したのは…何年ぶりだろう。
お酒も入っていないのに、私ははしゃいでいるのだ。
道の街灯は柔らかく、私たちの足元を照らしている。
そして、私たちは歩幅を合わせ手を繋ぎ歩き出す。
すぐ傍のコンビニに入り、二人で食べる物を選ぶ…カゴは彼が持っている。
「この、からし入りのかまぼこ、美味しいんですよ〜」
「これじゃ、ご飯にならないですよ」
「え〜、なら、呑みにしちゃいましょうよ〜」
私は、冷静な彼の返答などお構いなし。
明らかに食事になりそうもない、つまみやお菓子をカゴに放り込む。